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安心と安全の社会を作る-住民の生活と危機管理-

 日時:10/17(土),10/24(土)13:00~16:45 
場所: 明治大学駿河台キャンパス リバティタワー 1F リバティホール
受講料無料,事前申し込み不要

安心と安全の社会を作る

危機管理という表現に注目があつまります。自身や津波,それに風水害などの自然災害にくわえ,大きな事故や町の安心や安全など,わたくしたちの周りでは,さまざまな危機が突然,おこる可能性があります。その上,鳥や豚からのインフルエンザがわれわれの生活に大きな影響をあたえる時代になりました。くわえて,コンピュータが故障することによって,空港で大きな問題が発生し,銀行のATMが稼動しなくなるなど,生活関連のききもしばしば発生します。社会が複雑になるにつれ,不測事態は際限なくあらたに増えていくかのようです。そうした現状を念頭にしながら,今回の公開講演会は安心と安全の社会づくりがテーマです。

今回は危機管理をテーマに,4つの主題を取りあげます。最初に危機管理とはなにかについて,一般的な説明を試みます。初回は,危機発生後の72時間における国や自治体の役割を説明します。つぎに,国民保護法を取り上げます。現在各地の自治体はこの法律にもとづいて国民保護計画を作成しています。外国からの脅威に,国や自治体はどのような対策をとっているかがテーマになります。危機に備える訓練についても,具体的な事例を紹介します。危機に対する備えでは図上訓練の効果が注目されています。この訓練のむずかしさや有効性を探ります。また,特別区のインフルエンザ対策について,区長から対応策の実際を講演していただく予定です。 

10/17(土) 13:00~16:45

「危機と72時間-不測事態への備えと課題」
中邨 章 明治大学政治経済学部教授
さまざまな事故や災害が発生するなか、危機管理という表現に注目があつまる。ところが、危機管理にはいろいろな問題がある。たとえば、資金についてである。安心で安全な町をつくろうとすると、資金が必要である。あたらしく消防署を増設することや、食料の備蓄を進めること、あるいは、防災センターを新設することなど、危機管理にはおカネが不可欠である。ところが、危機管理ではたいへんな資金をかけ、施設や機材を購入しながら、それが一切、つかわれないことが、もっとも素晴らしい政策なのである。これは、危機管理の矛盾と呼ばれるが、こうした政策は最近のように国や自治体の財政が逼迫している状況では、削減策の筆頭に挙げられる施策になる。優先順位の低い政策にならざるを得ない。ところが、社会生活が複雑になると、危機状況が増え、住民の安心や安全は一段と脅かされることになる。危機管理がむずかしいのは、こうした矛盾をどう緩和していくかにある。それを説明するのが、この講演の支柱になる。 
「国民保護法と地方公共団体の危機管理」
幸田 雅治 地方職員共済組合理事(前 総務省消防庁 国民保護・防災部長)
我が国に対する外部からの武力攻撃やテロなどが起こった場合、住民はどのように行動すればよいのか。わが身を守るために真剣に考えてみる必要があります。
平成16年に国民保護法が制定され、武力攻撃事態等において、国民の生命、身体及び財産を保護するため、国、都道府県、市町村等の責務が定められるとともに、国民の避難や救援のための措置が規定されました。
突発的な事態に的確かつ迅速に対応するためには、住民は、平素から緊急事態が発生した際の行動について考えるとともに、訓練等で備えをしておくことが重要です。また、地方公共団体も、自らの任務を十分認識し、住民との連携のための準備を行う必要があります。今回の講演では、国と自治体の共同訓練の実績を踏まえ、住民避難措置、災害への対処などに関する課題について説明します。
また、自治体においては、国民保護法に基づく対応の他、大規模自然災害、重大事故、新型インフルエンザへの対応など様々な危機への対応を行っています。自治体の果たすべき役割について、危機管理の4段階(被害抑止、被害軽減、応急対応、復旧)に沿って危機管理体制の一層の充実強化に向けた方向性についてもお話します。 

10/24(土)13:00~16:45

「現代における危機管理と防災」
青山  明治大学専門職大学院 ガバナンス研究科教授
2005年、ニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナ災害ではなぜ1300人を超える犠牲者を出したのか?近隣地域で犠牲者が少なかったのはなぜか? —継続して現地と交流し、思わぬ事実を知った。5000人を超す犠牲者を出した1959年の伊勢湾台風とは違う問題があったのだ。
1995年神戸地震のあと仮設住宅で多数の孤独死が発生したのはなぜか? 同じ年のシカゴ熱波で約500人の人が孤独死したのはなぜか? 2000年三宅島噴火による4年半の全島避難で孤独死がなかったのはなぜか? —災害時には、その社会がかかえる問題が表面化する。多くの失敗がある。人々はそこから学んで進歩する。
災害には地域ごとの特性がある。だからDCP(District Continuity Plan)が重要となる。災害対策は人々が元の生活に戻れるところまで続く。しかしそれは復旧を意味しない。被害を大きくした原因の除去が大切だ。
危機管理の考え方はアメリカで発達した。しかし2001年の9・11テロでは断片情報の統合 (Integration)に失敗し、これを防ぐことができなかった。アメリカのFEMAはニューオーリンズ災害に対応できなかった。
私たちは、お手本なしで、現代における危機管理と防災を考えなければならない。しかし豊富な経験から学ぶことはできる。被災体験を多くもつ日本はこれを世界に発信すべきだ。 
「自治体と新型インフルエンザ」
成澤 廣修(文京区長)
今回の新型インフルエンザ(弱毒性)の世界規模での発生は、自治体の危機管理体制を問うものである。来るべき危機に備えるためには、事前にマニュアルを整備しておく必要があるといわれる。その点では今回は各自治体とも新型インフルエンザに対応するためのマニュアル整備を行い、スタートラインでは並んでいた。しかし、強毒性ではなく弱毒性であると判明した段階から各自治体の判断は異なってくる。日々変動する生の現実に対して、マニュアルをどう徹底するか、又はそれをどう変容させて実践していくのか、各自治体は悩まされることになる。文京区でもマニュアルどおり実践していたならば、かえって住民の暮らしを混乱させたものと思われる。国や東京都の方針と歩調を合わせる必要があるが、一方で目の前の区民に対して、私たちには待ったなしの対応が要求される。昼夜を問わず、日々マニュアルを改定しながら国や東京都よりも迅速に判断し、かつ行動していかねばならぬ場面の連続であった(学校規模や構造を総合考慮した上での特定の学校の学年閉鎖も行った)。住民の安心・安全を守っていかねばならない基礎的自治体の首長として、どのように指揮を執ったのか(文京区ではインフルエンザ罹患家庭を支援するために地域商店と協定を結ぶなど文京区のファーストワン政策も展開した)、また今後執るつもりなのか、危機管理各論・実務現場編として、生の危機管理対応について講演してみたい。