杉原 厚吉
明治大学 研究・知財戦略機構・研究特別教授
先端数理科学インスティテュート研究員
各グループのリーダー役を務める先生にボク「めいじろう」がインタビューしました。
それぞれのテーマの意義や将来展望をじっくりお聞きしてきましたよ。
杉原先生がつくられた錯覚の立体作品を拝見しました。とても不思議ですね
めいじろうにも錯覚が起きたんですね。それは良かった。
でも、どうして錯覚してしまうんでしょう?
目には網膜があるのは知っていますか?この網膜に映る画像は2次元なので、奥行きのデータがありません。でも、私たちは経験や思い込みでそれを補っているために錯覚が起きると考えています。
それは良いこと、それとも悪いことなんですか?
数学的には、2次元の画像を投影図に持つ元の立体の可能性は無限にあります。でも、人間は無限の可能性なんて考えずに、一つの立体を思い浮かべる。素早くそれができるからこそ、生活できていると思いますよ。
そうか、瞬時に判断できなければ、街を歩くだけでも大変そうですね
錯覚が不思議なのは、実際と違って見えるだけでなく、本当はこうですとタネ明かしをした後でも、やっぱり正しい形には見えないことです。身の回りの現象の中で、未知の部分が大きく残っている代表の一つが、人の知能・知覚の分野なんです。
2010年の世界錯覚コンテストで優勝した「なんでも吸引四方向すべり台」
実際には中央が最も低いが、動画では、球が重力に反し、斜面を上るような錯覚を起こす。
錯覚がさらに楽しくなってきました
ちょっと待ってね、めいじろう。その一方で、もちろん良くない面もあるんです。錯覚は実際とは異なるように見えてしまう現象なので、例えば事故や渋滞の原因にもなります。めいじろうはネット通販を利用しますか?
ときどきお菓子を買うことがあります。
では、もし、商品の画像が実際よりも、すごく大きく錯覚するように映されていたらどう思いますか?
だまされた!と思いそう…
そこで私たちは錯覚の仕組みを数理モデルで記述し、錯覚の強さを数値化しようとしています。錯覚の仕組みが数理的にわかると、どうすれば錯覚を起こりにくくできるかもわかります。
それを応用するとどんなことができますか?
例えば、大きさやサイズを誇張する誇大広告を規制する基準づくりや、坂道の上り下りを見間違うことで起きる渋滞や事故を防ぐことにも役立ちます。
つまり、安全な暮らしに役立つわけですね!
そう。錯視量をコントロールすることで、錯覚の起こりにくい安全な生活環境が実現できると考えています。
「タイルも貼り方によって階段自体が歪んで見える。階段や歩道のタイルに不用意な工夫を施すと危険だということを示している」と語る杉原教授。
ほかには、どんな応用がありますか?
逆に、錯覚を強調すれば、見落としにくい標識や、事故が起きやすい場所の注意喚起もできます。それからめいじろうが見たように、おもしろい表現にも役立ちますよ。つい先日も、八海山麓スキー場で10m四方の反重力立体をつくって展示したばかりです。
本当だ!そりが斜面を上っていますね
錯覚は不思議で面白い視覚効果を生み出すので、錯視量を最大化することによって、新しい芸術表現やエンタテインメントに材料を提供できるはたらきもあるんです。
いろいろな可能性があることがわかりました。
最後に先生のグループの今後の目標を教えてください。
網膜で視覚情報がどうのように処理されているか、数理モデルにすることも課題です。
また、錯覚は伝統的に心理学の分野でしたから、実験データがたくさんあり、その中には数理モデルに近いものもあります。多分野の研究者と交流を持ち、視覚の仕組みを解き明かしたいと思っています。
杉原先生、ありがとうございました。