田野倉 葉子
明治大学 先端数理科学研究科 特任准教授
先端数理科学インスティテュート所員
各グループのリーダー役を務める先生にボク「めいじろう」がインタビューしました。
それぞれのテーマの意義や将来展望をじっくりお聞きしてきましたよ。
田野倉先生、よろしくお願いします。
こんにちは、めいじろう。めいじろうは金融についてどのくらい知識がありますか?
ぼく、ちょっと自信があります。リーマンショックのときは大変でした。
そうね。当時私は金融業界に勤めていて、世界的な経済危機へと波及していく過程を目の当たりにしました。各国経済が連鎖的に悪化するスケールとスピードは、それまで経験したことがないものでした。
もともとはアメリカのサブプライムローン問題が発端でしたよね。
アメリカの住宅バブルが弾けて、サブプライムローン(低所得者層向けの住宅ローン)債権を複雑に組み込んだ証券化商品は、一気に商品価値を無くしました。その影響で、世界の金融市場が大混乱に陥った。それ以来、金融市場の短期的な変動が及ぼす影響の大きさや、金融・経済のリスクが国境を越えて広がる脅威をみんなが考えるようになったのね。
あのときのような世界的な金融危機を防ぐ方法はないのですか?
それはちょっと結論を急ぎすぎ。過去に起きた危機の表面的な原因は、多くの研究者が分析しているけれど、次の金融危機がいつ、どんな原因で起きるかは、まだ誰にもわかりません。その問いの手がかりをみつけることも、私たちのグループの目的です。
先生たちのグループはどんな手法で研究を進めるのですか?
まず大事なのは現状の市場の動きを知ることです。そのために私たちは、理論からではなく、現実のデータをもとに、柔軟性のある数理モデルを構築しようとしています。
統計的なアプローチということでしょうか?
そうです。統計的な手法で、隠れている情報を見つけ出すことが第一歩になります。リーマンショックのときも、情報がすごいスピードで波及していく中で、雑音も多く、そこから有用な情報を得ることは困難でした。まずはある限りのデータを集め、現状を客観的に整理する手法を開発することですね。
それには、どんなデータが必要になりますか?
幸い、現在は、金融市場や経済の取引の多くが電子化されたため、経済活動の詳細なデータが観測可能になっています。半面、金融の自由化とグローバル化が進んで、どの国の動向も無視できなくなってもいます。金融取引は1/1000秒単位で行われているので、その膨大なデータのなかから、最大限有用な情報を引き出すことが必要です。
大変な作業になりそうです
次にいつ起きるかわからない世界的な金融危機という現実に対しては、遠回りに見えるかもしれませんね。でも、いまは現状を捉えることすら十分ではないし、まして予測なんて無理な状態ですから、まずは入手可能なデータを観測して分析し、現実に起きていることをできるだけ正確に理解することが、目的への第一歩になると信じています。
利益をいかに上げるかという意味の金融とは別物ということですね
私たちの目的は世界の金融市場や経済の安定化に貢献することですからね。悲観でも楽観でもなく、透明性と客観性をもって、金融市場の急激な変化の端緒をしっかりと見据えること。そのために、債券や不動産、保険、経済政策などのさまざまな専門家と多面的な研究を行おうとしています。
金融や経済が安定して成長する世の中になるといいですね。
今日はありがとうございました!