Go Forward

~大学院長からのあいさつ~

ハイブリッド人材を目指せ



大学院長  
博士(理学)

小川 知之 教授



 2021年8月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書には、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている。」と記載されています。さらに「人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしてい」て、「過去及び将来の温室効果ガスの排出に起因する多くの変化、特に海洋、氷床及び世界海面水位における変化は、百年から千年の時間スケールで不可逆的」だと警鐘を鳴らしています。つまり、我々が直面している降雨災害などは明らかに地球温暖化の影響であり、すでに地球環境ダイナミクスが今までと全く異なるフェーズに入っているかもしれないというのです。

 新型コロナウィルス感染拡大防止に関してもそうですが、一体私たちは地球規模の大きな危機にどれだけ真剣に向き合っているでしょうか。地球上の一人一人の行動の影響をどれだけ理解してそしてそれによる将来を想像できているのでしょうか。外出自粛や二酸化炭素排出抑制は私たちの行動を場合によっては著しく制限することになります。世界中の一人一人がこの脅威の意味を正しく理解できなければ、社会全体が経済的・精神的な犠牲を払うことになるような活動に協力してもらえるはずはありません。

 地球環境問題であれ、感染症問題であれ、こうした問題はグローバルに進化した現代社会の弱点をついています。問題解決が難しい理由は、多方面での「分断」にあります。まずは、政治的な分断です。例えば、大衆迎合政治が台頭し自国を優先し各国との協力を阻むという意味での国際的な分断がその最たるものです。学問の中にも分断があります。科学・技術は益々進歩しているのに、逆にその知識が一般の人々にほんの表層部分しか共有できていないという分断です。データサイエンス教育整備の遅れも関係しているかもしれませんが、もはや受験数学が好きか嫌いかで理系・文系とレッテルを貼っている場合ではないのです。

 人文・社会・自然科学のこれまでの研究成果は人類の文化遺産です。つまり特定の人たちのものではないのです。いま世界で活躍している人たちは分野にこだわらず幅広い先進の知識を持ちそれらを融合することで新たな価値を創造しています。もちろんそれぞれの分野の最先端で新たな探求を進めることも重要ですが、みんなが専門家になる必要がないのは明白でしょう。実際、数ある国際ジャーナルや国際的な研究補助金のキーワードを見てみれば、世界ではいかに分野間の融合研究が進められているかがわかるはずです。このような意味で、大学院教育は現代社会の分断を解消する最後の砦なのです。私たちは大学院教育によって、自然科学と人文社会科学の融合も目指し、哲学もサイエンスもわかる経営者、政治や経済のわかるサイエンティストなど新たなリーダーを育てていかなくてはなりません。そうしたハイブリッド人材こそが、SDGsが掲げる問題を解決するような新しい知恵と見識を生み出していけると信じているからです。

 明治大学大学院では、グローバルに活躍しうる人材を育てられるため、まずは主専攻分野の研究活動を行うための十分な素養を身につけられるよう大学院教育をデザインしています。また他の研究科・専攻の学生と学べる融合プログラムも研究科間共通科目などを通して用意しています。博士前期課程の2年間、加えて後期課程の3年間、研究活動を体験し研究者ネットワークを拡げることは、人生のキャリアデザインに計り知れない影響を及ぼすはずです。そしてこれからの世界はみなさんが作っていくのです。