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「沖縄の脱軍事化と地域的主体性」研究プロジェクト

プロジェクトの趣旨および進行予定

 本プロジェクトは、目下、将来的な課題、または、可能性として想定される-沖縄の米軍基地が整理縮小・撤廃されるプロセスを「地域の脱軍事化」として把握し、この過程における「地域」概念のダイナミズムを手がかりに、社会、文化、エスニシティ、環境、政治、経済といった、多様な視角からの学際的な研究活動・政策提言を推進するものである。基地問題に関する既存研究においては、平和や法の下の平等などの普遍的価値の重要性や、基地を押し付けられる側の従属性が強調される一方、基地と向き合う彼らの「選択権」とその基盤としての地域的主体性を必ずしも尊重してこなかった。また、この「地域」が分析対象となる場合、その意味内容は、県や市町村区などの行政区分に基づく地理的な属性や、〈沖縄-本土〉というステロタイプ的な二項対立の図式に過度に拘束されることが多かったのである。

本プロジェクトが想定する、「沖縄」における「地域」概念は、以下のような重層性をもって展開する。便宜的に地理的な行政区分を使用して表現すれば、(1)沖縄県の圏域(潜在的には、奄美諸島を含む「琉球弧」)、(2)沖縄県内部の市町村区、(3)日本国内・海外における移民・県系人ネットワーク--の各次元が相互に連関し、「シマ」を構成しているのである。

本プロジェクトでは、(1)~(3)の各次元における事例研究を分担して展開していくものとし、まず、(1)の次元においては、沖縄経済論の分野より、本土に対して独自に発展した経済・開発思想の系譜と今後の発展方向、新旧の地域経済分析ツールの沖縄への適用可能性、地域的主体性の経済学的含意、米軍再編やFTA(自由貿易協定)の進展と、道州制の導入による沖縄経済への影響などについての研究を行う。

(2)の次元では、社会学の分野より、現代進行形の問題である普天間基地の辺野古地域への移設問題を中心にした事例研究を行う。具体的には、米軍基地が、「迷惑施設」でありながらも、経済的必要とその結果である社会的・文化的関係を通じて地域に内部化することで、特定の地域の人々が、自己決定権としての地域的主体性を喪失している構造の存在と状況を、主に人々の意識に関する実地調査を通じて分析するものである。

(3)の次元では、文化論、エスニシティ論の分野より、「沖縄ブーム」の中で、「創られた伝統」としての「沖縄イメージ」が商業活動に利用される一方、沖縄戦の歴史的記憶や基地問題を始めとする政治的課題が後景化する現状をフィールドワークを通じて分析する。特に、東京の沖縄出身者とその子孫を中心にして行われている--沖縄の政治的な課題や独自の文化性を広報するための様々な活動、また、海外の沖縄移民の社会における同様の活動を事例として研究を行う。

以上の事例研究を綜合することで、沖縄の「地域的主体性」が米軍基地の整理縮小・撤廃に果たす役割に関する一定の見取り図が描かれることが期待される。本プロジェクトはその研究成果を、季刊『軍縮地球市民』、独自の研究会、シンポジウム、印刷物、また、各種の学会、出版物などを通じて発表し、その過程で、外部の関係者や関係機関とも有機的に協力していく予定である(なお、ネットを積極的に利用する)。これらの活動により、本プロジェクトは、沖縄の基地問題の解決と軍縮平和研究の発展に寄与することを期すものである。

主要メンバー

 研究統括責任者(所属)
畠山大(明治大学商学部兼任講師)

共同研究者(所属):2005年10月15日現在
熊本博之(東洋大学社会学部非常勤講師)
桑江友博(武蔵大学人文学研究科社会学専攻博士後期課程)
高良 沙哉(沖縄大学非常勤講師)
藤中 寛之(沖縄大学地域研究所特別研究員)
與那嶺 新(與那嶺茂一法律事務所事務長)

具体的な研究項目(2005年10月15日現在)

1.沖縄における経済・開発思想の系譜と今後の発展方向
2.基地経済の概念規定と基地依存率の計算方法に関する整理と考察
3.振興策についての史的・現状分析(安保政策・基地問題との関係)
4.地域経済分析に関する諸理論・ツールの沖縄への適用可能性
5.沖縄における地域的主体性の経済学的含意(地方分権・自由貿易協定の影響)
6.辺野古における地域的自主性の所在
7.辺野古の日常と米軍基地
8.米軍基地についての県民意識調査
9.基地反対運動と沖縄
10.沖縄における正義/不正義の所在
11.沖縄2区の選挙分析-なぜ照屋寛徳は勝利したのか
12.東京における「エイサー」の誕生とその変遷
13.地域活性化で利用されるエスニシティ
14.都市における「エイサー」団体の成立条件
15.「創られた伝統」における正当性・正統性の確保東アジアの人材・文化交流

ウェブサイト

「沖縄の脱軍事化と地域的主体性」共同研究プロジェクト最終報告書

『沖縄の脱軍事化と地域的主体性-復帰後世代の「沖縄」』 『沖縄の脱軍事化と地域的主体性-復帰後世代の「沖縄」』(徳馬双書001)発売中

 この度、明治大学軍縮平和研究所「沖縄の脱軍事化と地域的主体性」共同研究プロジェクトは、研究所の研究成果を幅広く知って頂くための「徳馬双書」の記念すべき第1 巻として、『沖縄の脱軍事化と地域的主体性--復帰後世代の「沖縄」』を出版しました。お求めはお近くの書店もしくは西田書店まで。
内容 序(福田邦夫〔明治大学軍縮平和研究所所長〕)
プロローグ(畠山大)
第1章「意思表明の自由にむけて-辺野古における不正義の描出とケイパビリティの実現」(熊本博之)
第2章「安全保障の当事者としての地方自治の可能性-「脱軍事化」に向けた沖縄の道州制論議の文脈から-(藤中寛之)
第3章「自治と司法の地域的自律-地域自ら決定したルールを治めるためには-」(與那嶺新)
第4章「基地のない未来を目指して-地域の特性を生かした街づくりと自立-」(高良沙哉)
第5章「コミュニティ形成の契機としての『沖縄』」(桑江友博)
第6章「沖縄経済論の脱軍事化と地域的主体性」(畠山大)
エピローグ(熊本博之)
あとがき(畠山大)
発行 明治大学軍縮平和研究所(徳馬双書001)2006 年11月15日
編者 畠山 大、熊本 博之
著者 藤中 寛之、與那嶺 新、高良 沙哉、桑江友博
発売 (株)西田書店(Tel 03-3261-4509 Fax 03-3262-4643)
定価 本体2800 円+税
体裁 A5 判(338 ページ)
ISBN 4-88866-439-0