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「竹内好」研究プロジェクト

プロジェクトの趣旨および進行予定

本研究プロジェクトが発足した大きな動機には、日本における中国認識の停滞が大きな背景となっている。文革の終結以降、日本人研究者は、容易に中国にいけるようになり、歴史研究や人類学研究などでも大きな成果をもたらしているものの、いわば重箱の隅をつつくような研究の集積に止まっている傾向がある。その原因には、中国の国土の大きさ、文化の多様さ、歴史の複雑さというものがあげられよう。しかし今日、八十年代以降から積み重ねられてきた細かい実証の集積だけでは、日中間にわだかまる歴史認識の相克というもの、文化観の相克というものを処理できないことも明らかになっている。

そのため本研究会では、戦前から中国と接し、いわば戦後の中国研究の精神的支柱となっていたものの、八十年代以降、研究者の間ではほとんど見捨てられていた竹内好の中国(アジア)認識に注目したい。竹内好から学べることは、中国(及びアジア)を研究することは、日本人の歴史的主体性に跳ね返ってくることであり、各自の研究テーマをさらに歴史的アイデンティティの構築に開かれたものにできる、ということである。本研究グループでは、当時の歴史状況——日中戦争、冷戦期などを考慮しつつ、竹内好が残した仕事や論争に分け入り、さらに他の思想家の仕事にも留意しつつ、テキストに対する新たな読みを提示して行きたい。

ただ本研究会のもう一つの方向として、竹内好は、九十年代以降、むしろ中国大陸や韓国、台湾などで広く読まれていることもあり、積極的に海外の研究者(竹内好研究にかかわらず)と交流し、東アジア内部の思想史的対話を試みて行きたいと考える。大陸中国、韓国、台湾、日本で活躍する研究者・思想家の仕事に注意を傾け、長期的な東アジアにおける知的生産と平和構築に寄与したい。 

主要メンバー

 代表者(所属):
丸川哲史(明治大学政治経済学部助教授)
共同研究者(所属):2006年4月1日現在
鈴木将久(明治大学政治経済学部助教授)
米谷匡史(東京外国語大学外国語学部助教授)
佐藤泉(青山学院大学文学部助教授)
佐藤賢(一橋大学大学院言語社会研究科博士後期課程)
原正人(一橋大学社会学研究科博士後期課程)
鳥本雅喜(東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程)
本田親史(法政大学大学院社会学研究科博士後期課程)
池上善彦(編集者、青土社)

具体的な研究項目

1.竹内好の思想と経験に着目し、新たな竹内好像を提示する。
2.中国における革命や戦争は、中国知識人の思想形成にどのような関わりを持ったのか、研究を進める。
3.日本のアジア観を明治維新に遡って考究し、さらにアジア主義者と呼ばれる人々の思想動向を検討する。
4.東アジアにおける日本帝国の役割を考察し、さらに植民地下の知識人の思想形成に着目し、検討を加える。
5.竹内好が活躍した当時(戦前・戦後)の日本の知識界、思想界の論争を点検し、新たな視点による解釈を試みる。
6.東アジアにおけるアイデンティティ形成の問題を歴史に遡って考究する。
7.近代日本の知識人のアジア観に着目し、アジア蔑視の根幹を検討する。
8.大陸中国、韓国、台湾などの知識人の日本観を歴史的に解析するアクション・プログラム

(文責:丸川哲史,2006年4月1日現在)