玉置雅彦農学部教授および小沢聖農場特任教授らによるICTを利用した養液土耕栽培システム「ZeRo.agri」に関する産学連携成果を発表しました

2013年06月01日
明治大学 研究・知財戦略機構

 本学玉置雅彦農学部教授および小沢聖農場特任教授は、明治大学地域産学連携研究センターの入居企業である株式会社ルートレック・ネットワークスとの共同研究を中心として、日本マイクロソフト株式会社および株式会社セカンドファクトリーの協力も受けて得られた産学連携成果として、クラウド*1)を活用したICT*2)養液土耕栽培システム「ZeRo.agri」を発表しました。

 本共同研究は、2012年4月から神奈川県川崎市に開場した明治大学黒川農場にて実施されたものです。従来は農業の経験則や勘に頼ってきた品質管理をデータ化することにより、収穫量の増加、品質の向上および安定化が期待されます。

 本学およびルートレック・ネットワークスは、岩手大学とともに、復興庁および農林水産省が公募した平成25年度「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」(岩手県内農業・農村分野)に採択されており、今後は、同事業にもとづき3年間かけて岩手県での実証研究を実施する予定です。

 主な発表内容は、次のとおりです。
概 要:
 日本の農業において、後継者が少ない、規模拡大が進まない等の悪条件を作ってきた原因のひとつは、栽培管理を経験と勘に頼り、数値化をおろそかにしてきたことにあると考えられています。そこで、数値管理の導入が比較的容易なハウスの養液土耕栽培*3)をターゲットとして、ルートレック・ネットワークスの「つなぐ技術」を活用した産学共同の取り組みにて、養液土耕栽培システム「ZeRo.agri」を開発しました。
 本システムでは、ハウス内で気温、土壌水分、土壌電気伝導度(EC)および地温を、ハウス外で日射量を測定します。このデータをインターネットを介してクラウドに送信し、クラウドでデータを基に培養液供給の量と時刻を計算します。この結果を制御信号としてインターネットを通じてハウスに送り、ハウス内の電磁弁を開閉し、培養液供給を管理します。この仕組みを利用することで、既存の暖房、換気の制御にも対応できます。クラウドには測定データ、管理データが蓄積され、これに定植日、品種、病害虫の発生状況、生育状況、収量等といった栽培日誌情報を記録することで、データセットが完成します。生育状況は、定期的に定位置からスマートフォンで写真撮影を行います。

「ZeRo.agri」の特徴
 「ZeRo.agri」は、すべてが自動ではありません。培養液供給ロジックをシンプルにして、栽培者が生育状況をみて、目標土壌水分、目標培養液濃度を調節する仕組みにしました。これは例えば、経験ある「親父」が作物をみて、「息子」に助言することに似ています。「息子」は「親父」の助言にそって制御の目標値を調節します。すると「親父」の勘が、数値化されて記録に残り、翌年には「息子」を「親父」に近づけます。あるいは、農協の部会といったグループで導入し、データを共有すると、個人差が数値化されるため、グループ全体でのレベルアップに活用できます。
 このように人間の判断を残すことで、安く製品化できるだけでなく、「M2M」を「Machine to Machine」から「Man to Man」に広げる期待を込めました。
 培養液供給ロジックの基本は、日射追随、土壌水分の定値制御、既存の適正培養液濃度です。したがって、日射量に大きな差がない数10km四方の範囲では、制御信号を共有できます。「こんなもの使い切らん」という老夫婦に対して、地域の若者が制御信号を提供することでサポートできます。
 農家においては、子供のうちのひとりが、休日に車で実家に通える街に住むケースが多くあると言われています。これまでの兼業農家では、村に住んで街に通うのが当たり前とされてきました。しかし、「ZeRo.agri」はこの逆を可能にします。データと写真をみることで、平日は息子が街から培養液を管理し、作物管理は村の両親と相談して行うことができます。また、休日に実家に帰ったときの作業を主動的に行うことができます。

 本成果を適用するターゲットは、経済的に自立可能な30アールから50アールの中規模ハウス農家です。過度な企業参入で農村が農業労働者ばかりになると、消防団、自治会等の活動に支障をきたし、農村社会が崩壊しかねないため、地域の社会形態に適合した企業、自営農家、農業労働者のバランスが求められていますが,「ZeRo.agri」はそのバランス維持に寄与することが可能です。
 「ZeRo.agri」の導入費用は、1台120万円程度で、これに通信経費、クラウド利用料として月に1万円ほどかかります。一般的に、養液土耕栽培で収量は20%ほど増えるので、中規模ハウス農家ならば、1,2年での経費回収が見込まれます。

 また,本成果は環境保全にも寄与します。現在,世界で消費する化石燃料の8%が窒素肥料の生産に使われています。また、施肥した窒素肥料の50%は作物に使われずに地下に浸透し、地下水、河川の水質汚染の原因になっています。そのため、窒素肥料の有効利用が地球温暖化、水質汚染の対策に求められていますが,養液土耕栽培は元肥*4)を与えず、日々必要な肥料だけを供給するため、肥料の利用効率を80%以上に高めるだけでなく、環境保全にも役立ちます。

本成果について
 本成果は、2012年度の川崎市産学共同研究プロジェクト「スモールスタート可能なICT利活用遠隔営農モデル開発」によるものです。同プロジェクトでは、日本マイクロソフトのクラウドサービス「Windows Azure」の上にM2M型のアプリケーション構築を行いました。また、セカンドファクトリーの協力によりタブレット端末にて、指先ひとつでデータ閲覧、制御等全ての動作が可能となりました。記して謝意を表します。

用語解説:

1)クラウド
 コンピュータの所有から利用へのトレンドに対応するために、「ネットワーク、ストレージ、サーバー、アプリケーション等」のコンピューティング・パワーをインターネット経由にてオンデマンドで利用できる形態の事を示します。

2)ICT
 情報通信技術(Information and Communication Technology)の略語です。従来は、通信技術(IT、Information Technology)が総称でしたが、インターネット普及後にはICTが一般化しました。

3)養液土耕栽培
 肥料を溶かした水を土壌に潅水して作物栽培することです。1950年代にイスラエルで総合的な節水栽培法として開発されました。この技術の特徴は、元肥をやらずに日々必要な肥料だけを供給することです。そのため、作物が受けるストレスは軽減し、肥料の有効利用が図れます。

4)元肥
 播種あるいは定植時に与える肥料で、全施肥量の半分以上が元肥です。作物の吸収量の少ない時期なので、ほとんどが地下に浸透し、肥料の無駄と水質汚染の原因になっています。

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