新領域創成型研究・若手研究詳細 2007年度

雄性不妊を呈するトランスジェニックラットの不妊責任遺伝子の解析

研究課題名 雄性不妊を呈するトランスジェニックラットの不妊責任遺伝子の解析
研究種目等 新領域創成型研究
研究概要 (研究目的)
① 研究の全体構想及び目的
1)研究の背景
 我々は性腺刺激ホルモンを構成するFSHβ鎖遺伝子の転写調節機構解析を通じて,このホルモンが示す生殖調節の分子機構解明の研究を進め,世界で初めてとなるFSHβ鎖遺伝子転写因子としての(Prop-1の発見Aikawa et al, Biochem Biophys Res Commun, 2004)を含め,国際誌に多くの成果を報告してきた(Aikawa et al, J Reprod Develop, 2005; Aikawa et al, J J Reprod Endcrinol, 2005; Sato et al, J Mol Endocrinol, 2006; Susa et al, Biochem Biophys Res Commun, 2007)。本申請課題で扱うTGラット(TG)は,こうした研究の延長線上に派生してきたものであり,FSHβ鎖遺伝子上流域を組み込んで作成した本TGラットは世界で初めてであり,本課題の様な生殖研究に良いモデル動物となると期待している。
 本TGラットの特性は最近報告した(Cai et al, J. Repro. Develop. 2007, in press)が,このラットの最大の特徴は,雄性不妊を示すことにある。つまり,組み込んだ遺伝子の特性に依存して,雄の生殖能が失われており,我々はこの事に着目した。精巣,精巣上体,精子等の組織化学的検討して雄性不妊の原因を解明することで,精子形成の分子機構を明らかにできるのではないかと考えるようになり,本課題の研究計画を立てることとなった。
2)到達目標
 雄性不妊の原因となる責任遺伝子とその作用機序を明らかにすることである。これまでに本TGラットを検証したところ,1)3ヶ月齢で既に精子に異常が認められること,2)精子の膜の選択的透過性が消失し,運動性が無いこと,3)老化した13ヶ月齢では,精原細胞は全くなくなりセルトリ細胞のみとなること,4)その原因の端緒は,精巣および精巣上体におけるFSHβ鎖遺伝子の異所性発現によるHSV-TK遺伝子の発現ではなく,組み込んだHSV-TK遺伝子に内在する精巣特異なプロモーターによる異所性の発現であること,5)精巣におけるHSV-TK遺伝子の発現は一倍体円形精子細胞であること,6)精巣重量および精巣上体の重量は有意に減少している,ことなどを明らかにしている。
 以上のことから,特定の精子形成時期で生じる異常が精子の減少をもたらすと考えられ,雄性不妊の原因となる因子の同定をその作用機序解明を目的とする。
3)期間内に明らかにしたいこと
 この1年間で,1.性腺の組織化学,2.電子顕微鏡観察,3.両組織における導入遺伝子の発現の確認,4.TGラット精子を用いた顕微授精による授精能の有無の確認,5.精子運動性獲得のための試行実験,6.プロテオーム解析,7.マイクロアレイ解析,などにより雄性不妊の原因となる因子の手掛かりを得るところまでは進め,来年度の科研費申請の基盤をつくりたい。

② 当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義
1)学術的な特色・独創的な点:このTGラットが示す雄性不妊は,HSV-TK遺伝子上の異所性プロモーターを介した発現により,HSV-TKの酵素反応の亢進による大量のATP消費が引き金と考えられる。その結果,精子形成の不全が起こって不妊にいたる現象となると考えられる。こうした機序が推察される優性不妊のモデルTGラットを我々自身で作出し,解析できる点に大きな特色があり,独創的展開が可能である。
2)予想される結果と意義:本課題の遂行により,不妊の原因となる責任因子を解明する手掛かりが得られる。不妊責任因子とその作用機序の解明によって,不妊症の判定法の開発,不妊症の治療とその治療薬の開発,精子培養系の開発など,畜産分野および医学分野での貢献も期待され,この課題遂行による波及効果は大きい。

③ 国内外の関連する研究動向や自らのこれまでの研究実施状況を踏まえ,着想に至った経緯
マウスを用いた同様のトランスジェニック作製実験が国外で行われている(AL-Shawi R., et al.,Mol. Cell Biol.,1991.11:4207-16; Ellison AR.,et al., Biochem. Biophys. Acta, 1998, 1442:28-38)。雄性不妊を示す例では,いずれも精巣におけるHSV-TKの異所性発現が原因と考えられてはいるものの,それ以上の詳細な解析は行われていない。

(研究実施報告)
 我々が独自に作製した,FSHβ鎖遺伝子上流をレポーター遺伝子チミジンキナーゼ(HSV-TK)に連結したキメラ遺伝子をラットに導入したラット(TGラット)で見られる雄性不妊の原因に着目して,本研究が計画された。本TGラットは,1)精子形成の異常,2)精子の運動性の欠除,3)老化ラットでの精原細胞の欠落,4)HSV-TK遺伝子に内在する精巣特異プロモーターによる異所性の発現,5)一倍体円形精子細胞におけるHSV-TKの発現,6)精巣重量および精巣上体重量の減少などを明らかにしている。
 研究費の助成を受けて,性腺の組織化学,電子顕微鏡観察,両組織における導入遺伝子の発現の確認,TGプロテオーム解析,マイクロアレイ解析,を進めた。この中で,組織科学と電子顕微鏡レベルの観察ででの精子異常を再度確認するともに,異所性発現の分子機構,つまり精巣特異な転写開始点を明らかにした。また,その転写開始点の情報をもとに,制御に関わる転写因子の同定を進めている。一方,TGと正常ラットの精巣のRNAをマイクロアレイ解析を行い,多数の遺伝子の発現レベルの差を見いだした。現在,それらについて再確認の実験を行っている。
 以上の成果の一部は,原著論文1編,学会発表として外部に公表した。

原著論文
Cai, L. Y., T. Kato, K. Ito, M. Nakayama, T. Susa, S. Aikawa, K. I. Maeda, H. Tsukamura, A. Ohta, S. I. Izumi, Y. Kato (2007). ""Expression of Porcine FSHb Subunit Promoter-driven Herpes Simplex Virus Thymidine Kinase Gene in Transgenic Rats."" J. Reprod. Dev. 53(2): 201-209.

学会発表
Cai, L.-Y., S. Murakami, S.-I. Izumi, T. Susa, M. Nakayama, T. Kato, Y. Kato.Ultrastructural Abnormalities of Spermatozoa and Age-Dependent Loss of Spermatogenesis in Transgenenic Rats Expressing Porcine FSHβ Subunit Promoter-Driven Herpes Simplex Virus Thymidine Kinase Gene. The 89th Endocrine Society Meeting, Toronto. (2007.6.2-5).
蔡立義, 加藤たか子, 和泉俊一郎, 加藤幸雄.TGラットにおける精子形成異常の遺伝子解析。 第32回日本比較内分泌学会大会, 日光, 日光プリンスホテル。 (2007.10.12-13)。
蔡立義, 加藤たか子, 諏佐崇生, 和泉俊一郎, 加藤幸雄。HSV1-TKトランスジェニックラットにおける精子形成障害の原因解析。 第30回日本分子生物学会・第80回日本生化学会合同大会, 横浜。 (2007.12.11-15)。
研究者 所属 氏名
  農学部 教授 加藤幸雄
  農学部 助手 蔡立義
  研究・知財戦略機構 客員研究員 加藤たか子
研究期間 2007.6~2008.3
リンク  

上へ戻る

明治大学 MEIJIUNIVERSITY

© Meiji University,All rights reserved.