新領域創成型研究・若手研究詳細 2007年度

環境対応型機能性ハイブリッド漆塗料の開発

研究課題名 環境対応型機能性ハイブリッド漆塗料の開発
研究種目等 若手研究
研究概要 (研究目的)
 本研究課題では,ハイブリッド化/複合化による漆塗料の高機能性化を検討している。具体的にはシランカップリング剤等のアルコキシシラン類・チタンアルコキシドおよびそれらの混合物等の添加による漆塗料の速乾化および漆塗膜の機能性向上を目的としている。
 ウルシ科ウルシ属の樹木から採取される漆液は,再生産可能かつ樹液単独で重合・硬化する天然塗装材料である。この硬化は樹液中の酵素を触媒とした主成分ウルシオールの酸化重合過程と,ウルシオール不飽和側鎖が空気中の酸素による自動酸化を受け,側鎖間での架橋が進行する過程からなる。一般の合成塗料のように有機溶剤を含まないため,揮発性有機化合物VOCを放出する事がなく,漆塗料は環境に優しい塗料であると言う事ができる。また古来より美術工芸品として珍重されてきた事からうかがえる美粧性(光沢・質感等)に富むばかりでなく,耐久性・機械的強度等に優れているため食器等日用品にも広く用いられてきた。このように長所を数多く有する漆塗料であるが,「乾燥に高湿度環境が必要」「乾燥時間が長い」といった乾燥面での欠点がある。このため漆塗料の塗装後には長期に及ぶ乾燥管理期間が必要とされており,工業スケールでの利用に適していないのが現状である。
 漆塗料の特異な乾燥性については,多くの研究者により乾燥性向上の検討がなされてきた。主なアプローチは樹脂等を混合して変性漆塗料とする事であるが,塗料成分の半分近くを置換しているために硬化塗膜の性質が混合した素材に影響され易いという欠点がある。
 そこで我々は漆塗料のハイブリッド化を検討した。この方法は本来,有機高分子の無機成分との複合化による物性強化手法であり,双方の特性を併せ持つ材料の開発に用いられている。また特に液体の金属アルコキシドを用いて調製したハイブリッド材料は有機・無機成分が分子レベルで分散しているため新たな特性を持たせる事が可能である。漆液のハイブリッド化は,液中の水分と金属アルコキシドを反応させると同時に酵素によるウルシオールの酸化重合を行うものである。さらにウルシオールとも反応し,両成分が結合するために相分離を起こす事がないために,無機成分の導入による物性強化だけでなく,乾燥性の向上といった新たな特性を持つ事が判明している。またハイブリッド化による漆液の改質は1割以下の添加量で済むために漆独特の質感等を保持させやすい点が特徴である。
 本研究課題では,「ハイブリッド化反応時には添加剤由来の低級アルコール類が副生する」という点に着目し,漆塗料は本来VOCを含まないという長所を活かすために,加水分解とアルコール除去処理を行う事で環境低負荷型ハイブリッド漆塗料とする事を目的としている(目的①)。なお,この開発研究は予備実験的に成功しており,現段階で95%以上の副生アルコール類を削減する事が可能である。また,従来のハイブリッド漆と比べて塗料粘度が低下しており作業性の向上が期待できる。また塗膜の新機能性(耐紫外線性・透明性等)発現についても検討を行うものである(目的②)。漆塗料を改良する事で工業規模での漆塗装製品の生産を容易にできると考えている。本技術を他の植物由来素材へ応用する事で,石油資源に依存する現状を打破する足掛かりになる事を期待している。

(研究実施報告)
 漆はその塗膜が有する美粧性と物性のために珍重されてきた天然材料である。また一般の合成塗料とは異なり,樹液中の酵素による酸化重合反応と,空気中の酸素による自動酸化反応を経て硬化する。そのため塗装後は酵素反応を活性化する高湿度下において長期間保存する必要があり,工業規模での塗装には適していないと考えられる。以前我々はこの問題点を,「速乾性ハイブリッド漆塗料」の開発により解消した。このハイブリッド漆塗料は添加剤であるシランカップリング剤が漆液主成分ウルシオールおよび水分と反応する点を利用しており,ウルシオール-ケイ素重合体を形成する事ができるために漆塗料の乾燥を促進する事が可能となった。しかしながらこのハイブリッド漆は,塗料調製中および塗膜の硬化時にシランカップリング剤由来の低級アルコール類が生成・放出される。そこで本研究課題では漆塗料の「天然の塗料であるために揮発性有機化合物VOCを含まない」という利点を活かした,環境対応型ハイブリッド漆塗料の開発を行う事とした。
 シランカップリング剤の加水分解と同時に溶媒除去を行うプロセスを開発する事で99%以上の低級アルコール類の除去が可能であった。水溶液化したこの試料を漆液にシランカップリング剤濃度が2~5質量%となるように添加,高粘度スターラーによる混練攪拌を行う事でVOCフリーのハイブリッド漆塗料を調製した。得られたVOCフリーハイブリッド漆塗料は従来法により調製されたものと同様に速乾性を有し,また50%RH前後の湿度環境下においても十分速く乾燥する事を確認した。これらは以前のハイブリッド漆と同様に,漆液成分と反応する事による高分子量化が寄与したものと考えられる。また応用事例として,植物油をベースとした反応性希釈剤による低粘度化および,無機質微粒子の充填による塗膜物性の更なる強化についても検討した。これらの結果は学会(第57回高分子討論会)及び論文投稿により発表する予定である。
研究者 所属 氏名
  理工学部 助手 石村敬久
研究期間 2007.6~2008.3
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