新領域創成型研究・若手研究詳細 2007年度

コーポレート・ガバナンスと環境適応に関する研究:動態的ガバナンスの確立

研究課題名 コーポレート・ガバナンスと環境適応に関する研究:動態的ガバナンスの確立
研究種目等 若手研究
研究概要 (研究目的)
 企業は利害関係者の利害のような様々な環境条件に制約を受けながら,自己の目的を達成しようと活動する。ただし,現実の状況ではモラル・ハザード,情報の非対称性,契約の不完備等の様々な問題から企業の活動が社会的に望ましいものから乖離する可能性がある。利害関係者の諸利害を反映させながら,市場・社会環境条件と有機的に連動した企業経営を誘導することがコーポレート・ガバナンスの機能となる。その中で,取締役会は企業と環境との「連結環」として,取締役会のさまざまな機能を活用しながら,環境条件適合的なガバナンスを遂行する主体として存在することになる。
  こうしたコーポレート・ガバナンスにおける取締役会の機能に関する既存の諸研究は,主に法制度理論,エージェンシー理論(Jensen,1976,2000),スチュワードシップ理論(Donaldson,1997)といったアプローチに整理できる。エージェンシー理論では,経済人としての「経営者」の恣意的行動を抑制するべく,業績連動型報酬のような外生的なインセンティブ設計や取締役会によるモニタリングメカニズムが強調されている。すなわち,「経営者」の恣意的行動から発生する(エージェンシー)コストを最小化することで,経済合理的な観点から「経営者」と利害関係者との間での利害均衡に導くことが目指されている。一方,スチュワードシップ理論に依拠したコーポレート・ガバナンスでは,経営者個人の達成感や自発性を喚起する内生的モチベーションの活性化方策の有効性が強調される。経営者の「社会人」としての側面が強調されるため,取締役会の機能は,経営者への助言・諮問などのような経営者とのコラボレーションが重視される。ただし,逆に「経済人」としての経営者行動から発生する(恣意的行動から引き起こされる企業財産の費消など)経営リスクを加味していない。
 以上の二つのアプローチは,経営者の人間仮説(「経済人」・「社会人」仮説)を前提条件とし,いかなる環境条件においても一面的な対応を行うようにモデルが構築されていることに向けられている。たとえば,エージェンシー理論では,安定的な環境における経営者のフリーキャッシュ・フローに対する裁量に対する経済的な合理的対応を考慮する。そこでは,企業経営の特殊性,ステークホルダーのあり方,経営者・従業員の動機・心情などのような内部・外部の環境コンテクストにおいて「満足」されるべき,多様な経営者行動のあり方を考察することが軽視されている(Hendry,2005)。また,制度と組織のあり方を捉える制度理論においては,歴史的経路依存性と社会の制度体系から取締役会のガバナンス機能の正当性を問題としている。そのため,法制度理論では,社会における文化・慣習に裏付けられた制度体系との関係性を強調するので,企業環境の変化に応じた特殊なガバナンス形態を記述することは難しくなる。
 こうした諸理論は,取締役会の機能について一側面を捉えているのに過ぎず静態的な環境においてのみ有効となる。しかし,現実の企業を取り巻く環境条件の不確実性の高い動態的な環境条件を考慮した多様な取締役機能のあり方を説明するのには不十分である。このことから取締役会の機能を考える上で求められるべきことは,複合的視点をもって様々な状況・環境に応じて異なる,適切な取締役会のあり方を総合的に分析することである。こうしたことから,本研究では,有効なガバナンスが保証されるための取締役会の機能と環境条件に関するコンティンジェンシー・フレームワーク(Contingency Framework)を洗練し,静態的なガバナンス形態から動態的なガバナンス形態へとガバナンス・モデルを進化させていくことを目的とする。
 すでに,研究代表者の博士論文において,取締役会機能に関するコンティンジェンシー(環境条件適合的)・フレームワークを提示してきた。CEOの性質・企業規模・企業の資源依存程度のような内部コンティンジェンシー要因が法的枠組み,環境の不確実性,産業規模などの外部コンティンジェンシー要因とともに取締役会のプロセス(構成・性質・構造)などに影響を与え,適切な取締役会機能が決定されることを明らかにした。本研究期間内で明らかにすることは,企業のおかれた状況における様々なコンティンジェンシー要因の特定ならびに,その取締役会機能との関係性の精緻化である。とくに,取締役会内のビジョン・チーム能力・戦略などの介在要因が取締役会機能と環境との間でどのような機能を果たすのか解明する必要がある。そして,このフレームワークの有効性・妥当性についてアンケートを中心とする実証研究を行うことである。こうした研究を通じて,取締役会の機能と環境との関係性についてのコンティンジェンシー・モデルの洗練化を目指すと同時に,既存の静態的なガバナンス・モデルから脱却し,市場・社会のような環境と有機的に連動する効果的なガバナンス・モデルの探求が研究の目的となる。

(研究実施報告)
 若手研究「コーポレート・ガバナンスと環境適応に関する研究:動態的ガバナンスの確立」において,取締役会の機能と環境との関係性についてのコンティンジェンシー・モデルの洗練化を目指すと同時に,市場・社会のような環境と有機的に連動する効果的なガバナンス・モデルの構築を行った。とりわけ,株式所有構造の観点から企業の資本構成・所有主体と取締役会機能の関係を検討する「市場」と,社会からの制度的同型化ならびに社会的責任の観点から取締役会の在り方を考察する「社会・制度」の2つの側面から環境と取締役会機能との関係メカニズムの把握することに力を注いできた。
 一年間の研究成果として論文・著書2本,学会報告5本,翻訳1本を発表するに至った。公表された研究成果は下記のとおりである。
論文・著書
西剛広「行動科学における変革型リーダーシップとコーポレート・ガバナンス:環境適応志向型の組織変革を目指して」明治大学商学研究所,『明大商学論叢』,第90巻第4号,2008年3月
西剛広「ノルウェーのCSR—スタトイル」高橋俊夫編著『EU企業論』,中央経済社,2008年4月
学会・研究会報告・講演会
西剛広「取締役会機能の多様なあり方と環境条件との関係性に関する一考察」日本経営学会関東部会(於:横浜商科大学),2008年5月26日
西剛広「環境適合的ガバナンスへ向けた取締役会の役割に関する一考察」日本経営システム学会第38回全国研究発表大会講演論文集(於:日本大学生産工学部),pp.144~147,2007年5月27日
西剛広「コーポレート・ガバナンスと組織デザイン—取締役会構造を中心に—」工業経営研究学会,第22回全国大会予稿集(於:大阪成蹊大学),pp.45-48, 2007年9月11日
西剛広「組織ポートフォリオ理論を基礎とした取締役会構成に関する一考察」日本経営システム学会第39回全国研究発表大会講演論文集(於:中村学園大学), pp.36~39. 2007年12月8日
西剛広「組織変革と学生に対するリーダーシップ教育」日本経営システム学会 インターンシップおよび大学教育改革GP成果研究部会(於:明治大学), 2008年1月18日
 本研究を進めるなかで,企業を取り巻くコンティンジェンシー要因により適切な取締役会構成が決定される静態的な関係を捉えた従来のモデルを再検討し,コンティンジェンシー要因と取締役会構成との間に「経営リスク」を介在させ,様々なコンティンジェンシー要因を複合的にポートフォリオとして捉えなおし,動態的に取締役会構成が変化するモデルを提示したことにある。すなわち,環境ポートフォリオを所与として,経営リスクを積極的にとり企業環境に対して意識的に働きかけ,組織変革に影響を及ぼす取締役会の機能の意義や可能性について示したのである。また,取締役会内のビジョン・チーム能力・戦略などの介在要因が取締役会機能と環境との間で果たす機能を考察するため,リーダーシップ論や産業心理学の議論を援用することにより,取締役会の環境認知のメカニズムや環境認知におけるバイアスの問題について指摘することができた。
 本研究は,静態的なガバナンス・モデルから脱却し,動態的なコーポレート・ガバナンス・モデルの精緻化・発展へ向けて大きく前進することができた。ただし,最終的なモデルの確立には至っておらず,この研究期間において示したモデルの実証が今後の課題となる。
研究者 所属 氏名
  研究・知財戦略機構 ポスト・ドクター 西剛広
研究期間 2007.6~2008.3
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