商学部の現場

CASE03

ホンダからの挑戦状

~クルマ離れした若者たちの奮闘記~

ホンダ埼玉製作所を見学

「クルマに関心がない」イマドキの大学生の大半の声だと言われます。クルマとは? 若者が求めることは? 手探り状態で始まったホンダ(本田技研工業)との共同プロジェクト。現場で学び、アイデアを考え、苦悩し得たものは、ホンダ流の〝ものづくり″精神!

文系学生がホンダとプロジェクト

「ものづくりの現場」は近いようで遠い。現場を「見て・感じて・考える」。このプロセスを通じ一人ひとりが問題発見力・課題解決力を身につける。富野ゼミナールのスタイルだ。「若者のクルマ離れ」の真相を探りたいホンダが、学生の思考やアイデアを求めプロジェクトは始動した。

キックオフは一枚のアンケート

2年生の終わりごろ、一枚のアンケート用紙<ホンダに関する調査>が配られた。「いよいよプロジェクトが始まる。期待と不安を胸に春休みを過ごしていた」。そう語るのは、富野ゼミの栗山さんと赤堀さん。実際、「グローバルメーカーのホンダであっても余り知らない」というゼミ生が大半で、クルマ離れした世代を象徴していた。

ホンダの社員に、アイデアや意見を本気でぶつける

緊張の対面…「ものづくり」に挑むプロの熱い想い

年が明けた4月、ゼミ室は緊張に包まれていた。その日は初めてホンダの方々と対面する日であった。強面な印象とは対照的に、企業の説明とクルマの魅力を熱弁する姿を見て、プロジェクトにかける想いは学生も企業も同じだと感じた。その際、ホンダが学生と組んだ理由もわかった。一言で言えばホンダにできないこと、学生らしい思考を求めていた。プロジェクトを通じゼミ生は思考プロセスを披露し、一方でホンダが大切にする「物事の本質を追求する姿勢」を身につけたという。

意外なキックオフ
(春学期/若者とシニアの市場調査)

「クルマのことは考えるな!」

先生の罵声が教室に響いた。年間を通じたテーマは「カーアクセサリーの提案」。意外にもプロジェクトは、ターゲットである若者とシニアの市場調査から始まった。「なぜクルマと直接的な関係のない調査を?」「何から手をつければ良いの?」など、手探りの状態で若者班はディスカッションを重ねた。シニア班は「おばあちゃんの原宿」と称される巣鴨でインタビューを時間の許す限り行った。枠組みがないからこそ、各々のやり方で調査は進み、結果は毎週報告した。

「その結果にyesと言えるか?」

初めてのプレゼン発表。先生は「その結果にyesと言えるか?」とゼミ生を一喝した。その言葉には二つの意図があった。一つは100%全力で調べた結果か。もう一つは学生の主観でも結果が正しいと思うかであった。「調査報告の甘さにはっとした。この言葉があったからこそゼミ生全員が本気になった」と栗山さんは言う。

リサーチは絶間なく3ヵ月続いた。終盤、大事なことに気がついた。リサーチには答えがない。だが初めに「クルマの調査」という先入観を持つと、「クルマを使う」というフィルターをかけてしまいリサーチの幅も狭まる。それを想定し先生は敢えて「クルマは考えるな」の檄を飛ばしたのだ。マーケティングのテキストに書かれている「探索型リサーチ」を、実践から学んだ春学期であった。

クルマを知るための試乗調査

長い市場調査を経て、ようやく「ホンダ」「クルマ」について知る機会があった。なかでもホンダのクルマを借りて行った試乗調査は、後のアイデア出しに大いに貢献した。長時間クルマに乗ることで、「クルマの中って声が届かない」「快適に過ごすためのグッズが意外と少ない」等、学生らしい素朴な疑問やアイデアがたくさん出た。赤堀さんは富野先生が担当している「生産管理論」の講義で、先生がよく口にする「現場主義」の意味を肌で感じたのがこの時だった。学習と実践がリンクする。産学連携の大きな魅力の一つだ。

ホンダにはないアイデアを!
(秋学期/カーアクセサリー提案)

コンセプト選定の重要性

秋学期、プロジェクトは製品提案に移った。「春学期の内容に捉われずに!」と先生が言う傍ら、「市場調査の結果と繋げて!」とホンダの方からのアドバイス。両者のアドバイスが食い違うこともあった。そして何よりも重要なのは、製品コンセプトの選定であった。「製品案を考える以前に、良いコンセプトを考えることが何より大切でした」と当時の様子を栗山さんは語る。しかし、そこに辿り着くまでは苦労の連続だった。何度も壁にぶつかり振り出しに戻る。2カ月間進展のない班もあった。そんな苦労を経て最終的にシニア班は、"高齢者には喜びを、家族には安心を"。若者班は"あえてクルマに帰ろう"というコンセプトに行き着いた。

なぜなぜ?から生まれる斬新なアイデア

コンセプトが定まると、それを軸にアイデア出しが始まった。「本当に周りの人(一般ユーザー)が思っていることか?それとも班内だけの空想か?」。アイデアは、データによる裏付けやロジックがないと説得力がないことは誰もが知っている。若者班は自分たちが"若者"であるため、どうしても主観的になりがちだが、客観的なデータにもとづく製品ならば学生が考えなくても作れる。プレゼンの度に堂々巡りした。なぜその結果なのか、なぜそう思ったのかと聞かれて答えられないうちはロジックが甘いと痛感した。言い換えれば、ものづくりは「主観や強い思い入れ」なしにできるものではない。先生やホンダの方に否定されても、現場(学生たち自身)から生まれた考えを貫き、数ある試練を乗り越えて、初めて先生の口癖である「とがったアイデア(=軸の通った斬新なアイデア)」が生まれるとわかったそうだ。

プロジェクトを終え4年生は就職活動を迎えた。「面接で志望理由を述べる際も、自分の主観や想いと客観的な部分の双方を汲み取って主張できた」と栗山さんは語る。赤堀さんは「プロジェクトで時間をかけ調査・準備した時は良いものができた。就職活動でも長い時間をかけチームで取り組める仕事を志望した」という。プロジェクトの成果だけでなく、プロセスにも大きな財産があると二人への取材を通じ感じた。

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