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学生相談室

「相談室の窓から」~彼氏・彼女のことを何と呼んでますか?~

2015年10月20日
明治大学

『彼氏・彼女のことを何と呼んでますか?』 

                                          学生相談室 相談員                                       国際日本学部教授 旦 敬介

 日本における男女間の平等や機会均等の状況が世界的に見てかなり遅れていることが大分意識されるようになってきたと思う。たとえば、様々なレベルの議会において、女性の議員の数が圧倒的に少なく、ハラスメントが常態化していることが露わになり、それをきっかけに、男女の議員数を均衡させるための比例代表制の工夫などが論じられるようになったことは大進歩だ。しかし、社会の変革が進んで本当に定着していくうえでは、若い人たちの積極的な意識変革が不可欠だと思う。ちょっと心配なのは、若い男女の関係を見ていて、男尊女卑的な感覚がむしろ強まっているように見える場合があるからだ。
 たとえば、自分の妻のことを「うちの嫁が」と呼ぶことは、僕の世代では完全に禁句だったと思うが、現在は広く許容されるようになってきているのではないか。「嫁」というのはもともと、結婚が個人間のものでなく、家族間のものとされていた時代に、夫の側の家族(主に親)が、他家からやってきた妻のことを、しばしば差別的な意思をもって呼んでいた呼称だろう。そんな封建的な呼び名が復古しているのだ。呼ばれた側としてそれがどれほど不快で不平等感のあるものなのかは、たとえば、夫のほうが「うちのダンナ」や「主人」ではなく、「うちの婿が」と呼ばれることを想像してみればわかるだろう。使っている本人としては、「うちの嫁さん」というもう少し穏便な呼び名の「さん」の部分を、「自分の妻をさん付けで呼ぶのも変だし‥‥」という「身内の謙譲」の感覚から省略しているだけなのかもしれないが、身内のことを本人にかわって卑下して見せるというのも、家族のことを自分の配下の存在として見ているから可能になる本当によくない慣習だと思う。家族の関係を悪くする以外の効果はないだろう。
 もうひとつ気になるのは、カップルの間で男の側が女性のほうを「お前」と呼んでいるケースだ。「お前」というのはやはり、敬意を払う必要のない相手を呼ぶ呼び名なのだから、そんな呼び名を許容していたら本来は対等であるはずの関係の中に上下関係が持ちこまれてしまい、いい関係になりようがない。
 日本語というのが愛情や親愛を表現するのが苦手な言語だ(「ダーリン」に相当する表現がないとか)ということも関係しているとは思うが、個人を尊重しない意識や男尊女卑的な感覚は、このようにしてことばの端々から忍びこんできてしまう。外国語でも何でも自由に利用して、新時代のイカした男女関係の呼び名を作っていってほしい。