
このたび、私は123年の歴史と輝かしい伝統を有する明治大学の総長兼学長の職を拝命いたしましたが、日ごとにその責任の重さを実感いたしております。もとより浅学非才の身でありますが、その職務を全うできうるよう、全力をあげて取り組む所存でおりますので、至らない点はご叱正の上ご協力のほどお願い申し上げます。これからの4年間、本学が21世紀においても名誉ある地位を保持つづけうるよう、私は全ての情熱を傾注いたします。
ところで、いま社会はIT(情報技術)化の波が一段と強まる中、多種多様な局面において質的転換が求められています。それは、何事につけてその合理性や効率性を厳しく追求していくとの風潮に後押しされているものと思います。確かに、この動きは、物質的には豊かな社会を実現しつつあるといえますが、それにもかかわらず戦争・テロそして環境破壊、さらには病気や飢餓などに苦しむ多くの人達がいることも現実であります。いま大切なことは、共生の理念のもと、人そのものが帯有している普遍的なものに視点を据えた教育、すなわち信頼・友情・人類愛さらには慈悲の心など日頃われわれが忘れがちに陥っている人々の美しい心を中心に据え、そこから人生の過し方を学ぶ教育が必要な時期に入っていると思います。
加えて、今グローバル化の動きは、厳しくかつ急速に進んでおり、現在は明治維新や戦後改革に匹敵する「第三番目の開国」の時期に入っているとも評されております。それまでの日本社会で確立されていた価値観や諸制度が否定され、社会は新しいものへ一斉にいわば衣替えが求められている状況になっているとのご指摘です。このような状況の変化をうけて、昨今「人類の行き先が不透明な時代になった」との警鐘の声を耳にするようになりました。国際社会の動きは勿論のこと、会社や家庭、さらには自らの人生そのものについてもその将来に不安を感じる時代に至ったといえましょう。同様なことは、大学の経営に対しても妥当するところといえます。今は「大学の存在意義」それ自体が問われています。わが明治大学は、自らの存在感を社会に示すためにも、外にむけての戦い、未知なるものへの挑戦が求められているといっても過言でないと思います。
いま本学が自己改革として目指すべきことは何か。それは、明治大学が外部評価に耐えうる大学になること、この一点に集約されると思います。このためには、たとえば、(1)大型研究プロジェクトやCOEなどにも十分に適応しうる研究環境の整備、(2)和泉キャンパスにおける教育研究環境に関するグランドデザインの策定とその具体化、(3)法科大学院など社会の流動性に応じたプロフェッショナル教育の体系化と教育内容の充実、(4)研究成果の社会への還元、(5)アカデミーコモンを拠点とする生涯教育の展開、(6)国際共同研究など国際交流事業の推進、(7)学生の生活環境の改善および、(8)社会的関心が高いスポーツ振興など教学が取り組むべき課題は多岐にわたります。いずれも困難なものですが、全学の「同心協力」をお願いして就任の所感といたします。