PHOTOGRAPHY__SHUHEI TONAMI/LOCATION__MIYAZAKI
学びの先に広がる世界

対話を重ねる
数学者で
ありたい。

宮崎大学
工学教育研究部 准教授小林俊介数学科

2020年に明治大学大学院を修了し宮崎大学で准教授をしている小林さんに、大学時代のこと、仕事のことをお聞きしました。

微分方程式との出会い

明治大学での学びは、私の人生の転換期でした。私の目標は当初、高校の数学教師でしたが、微分方程式と出会い、研究者に変わりました。私は音楽が好きなので、学部時代は良い音を追求するために、微分方程式を用いた内耳における蝸牛のはたらきの研究に没頭しました。

その後は力学系理論を中心に研究を進めました。さまざまな現象を微分方程式で記述できるのですが、解を書き表すことができない場合がよくあります。カオスはその代表例で、「数学=解の導出」と思っていた私にとって衝撃的でした。力学系理論を使うと、微分方程式を解かなくても解の振る舞いと実際の現象を照らし合わせることができるようになります。明治大学でこのような学びがあったからこそ、研究者になれたと思っています。

数学×他分野=新たな結果。

博士号取得後、京都大学のサイエンス連携探索センターに特定助教として着任しました。ここは、異なる分野の研究者や学生が集まり、分野の壁を越えた融合研究を推進する部門です。数学・数理解析、物理・宇宙物理学、地球惑星学、化学、生物科学の5分野を横断して研究を進めることが特徴です。私の中で数学の研究とは孤独なイメージでしたが、こんなにも外に開かれているのだと実感することができました。

数学はさまざまな分野に活用できます。たとえば、感染症の伝播の予測や蛇口から滴る水の形状の表現、渋滞を緩和するためのアルゴリズムや生物種の個体群動態など、あらゆる問題の解決に向けて、数学を使った研究が進められています。ただ、新たな結果は一人では創出できず、数学の研究者と他分野の研究者が交差するからこそ実現されるのだと考えています。

数学の可能性を広げたい

いま私が注力している研究は、燃焼の現象を数学で明らかにしていくこと。この研究は、他大学の燃焼や消火の研究者らと進めています。燃焼速度は可燃物の形状によって異なります。燃焼現象を数式化し、速度と形状との関係性を力学系理論を用いて明らかにできれば、燃焼速度の制御が可能となり、火災による被害の減少に貢献できると期待しています。燃焼を抑制するためには化学的な抑制剤を添加するのが一般的ですが、燃焼時に有害物質を出す可能性があります。もし、燃焼をカーテンの形状で抑制することができれば、より燃えづらくかつ人体と環境に優しい防炎カーテンの実現につながるかもしれません。

こういった示唆は私一人の考えではなく、他分野の研究者と対話を重ねることで生まれ、いつも私の世界を広げてくれます。これからも、数学それ自身の深化・発展への貢献は勿論のこと、数学の可能性を拡げられるように研究を進めていき、やがては人・社会・環境に役立つことができればと思っています。

小林俊介

数学科/2015年卒業
大学院理工学研究科 基礎理工学専攻 数学系 博士前期課程/2017年修了
大学院理工学研究科 数学専攻 博士後期課程/2020年修了
※基礎理工学専攻 数学系は2017年度から数学専攻に改組

2020年3月大学院理工学研究科 数学専攻 博士後期課程修了。その後、京都大学大学院理学研究科附属サイエンス連携探索センターにて特定助教を務める。2022年より宮崎大学工学教育研究部にて准教授に着任し、教育研究活動を行っている。

※所属・役職は取材時点のものです。