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「米沢嘉博と本・明治大学・コミックマーケット」第3章1項
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『米沢嘉博と本・明治大学・コミックマーケット』
対談:米沢英子×間宮勇(学長室専門員長・法学部教授)
オブザーバ参加
・安田かほる(コミックマーケット準備会・共同代表)
・藤本由香里(国際日本学部准教授)
・森川嘉一郎(国際日本学部准教授)
第3章 米沢とコミックマーケット
●何もしないということをすること
間宮
:
最後に、米沢さんがずっと代表を務められてきたコミックマーケットについて話していきたいと思います。この間お借りした本(『米沢嘉博に花束を』虎馬書房発行)を読んでいると、組織化は極力したくないし、組織を意図的に動かそうともしないとおっしゃっている。こういうひとつのイベントなり組織なりを継続していくとなると、なかなかそういうスタンスは難しいだろうと思うんですよね。どこかで組織的なことを考えざるを得ない。ところが、それをしないで継続してできるというのは、すごいなと思います。例えば、人が集まってくるとか、周りが作ってくれるというのもあるのでしょうが、そう簡単に世の中でそういうことは起きません。
米沢
:
そのことはよく言われるのですが、実際、放任主義というか全体の流れに任せていました。準備会の中で誰かから特定の人に対する苦情を聞かされても、彼はその人を非難したりしないし、まあ困ったねくらいで終わってしまう。時間がたてば収まるところに収まってしまうだろう、そういうふうに考えていたようです。
間宮
:
そもそも仕事だと思うから、ちゃんとしないといけないとみんな不安になるわけです。けれども、好きで集まっているのだったら、みんなが好きな形で動いていけば良いのではないか、という風に本当に思えれば、おそらく「仕方がないんじゃないか」とか「困ったもんだね」とかで、済むのではないかと(笑)。逆を言えば、組織を運営していく上で、どこか誰かに任せながら、最後には自分がどうにかすればいいんだ、という開き直りがあった?
米沢
:
そうですね、自分は運が良いほうだと思っていたのかもしれませんが(笑)。別に彼が「さあ行くぜ」と舵取りしているのではないのですが、ただ何となく徐々に軌道修正している気はしました。間違った方向に行きそうなときは、少し流れを変えるようにしていたりはしていたと思います。それをあんまり人には言わないでいたようですが。
間宮
:
普段何も言わないと、その分不安になって、肝心な一言が心にしみてくるっていうか、説得力があるということになるのでしょうね。
安田
:
絶対言わない人だから、この人には絶対迷惑かけないとみんなが思うんですよ。この人に頭を下げさせるようなことはしたくないと思ったりすると必要以上にがんばってしまうというか……。そういう人だったと思います。
間宮
:
それって自然にできないとそうならないですよね。やろうと思っても無理ですよ(笑)。
安田
:
なんていうか、人たらしなところがありました(笑)。
米沢
:
私がけっこう口うるさい方なので、逆に彼は押さえる方に回って、私が悪役になっていました(笑)。
間宮
:
そういう役割分担がうまくいっていた、というところがあるんでしょうね(笑)。
藤本
:
米沢さんの懐の深さというのが、コミケットにおいて、自由を確保すると同時に個々人の責任意識につながり、コミケットをあそこまで大きくしていったわけですね。
●コミケットというシンプルな場
間宮
:
話を少々戻しますが、先ほどのお話しをうかがっていて、ちょっとまずいなと思ったときに、「いや、ここはこうした方がいいじゃないの?」とアドバイスを少しだけするというような形でやって動いていくというやり方では、方向性を保つのが難しいこともあるのではないのかとも思ったのです。とはいえ、同人の人たちが集まってマーケットで売り買いをしていくという、非常にシンプルな形を基本的に維持していくっていうことであれば、方向性だなんだとか余計なことを考える必要もないのでしょうね。
米沢
:
コミケットって、実は非常にシンプルなものなんですよ。要するに『場』を作って人が来て帰っていく。
藤本
:
だからこそ『場』を作って、それをそのまま維持していこうというのが動機になっている。
間宮
:
でも、大きくなっていくと、単にいろんな人が集まる『場』ではなくて、「こういうことを考えている人たち、あるいはこういうことをやっている人たちの『場』」という風に決めたがる人たちが必ず出てきますよね。
米沢
:
コミケットもそうでした。今から考えればたわいもないことなのですが、俗に「クーデター」と呼ばれるような分裂騒ぎが81年にあったんです。昔からいるスタッフと新しい人たちとの間に考え方の違いがあって、若い彼らは米沢に詰め寄って、自分たちを取るかどうするかを迫ったのですが、彼はどちらもとれなかった。
藤本
:
米沢さんはかなり官能系というかそういうマンガや雑誌もかなり多く持っていて、平凡社から発禁本に関するムックも作られて賞を取られていますよね。そういうアウトサイダーな部分が好きなんでしょうね。
間宮
:
その若い人たちは、結局何らかの方向性などを明確に打ち出した『場』にしたかったということでしょうかね。
米沢
:
スタッフに対しても組織化を進めようとするのですが、彼はそういうのは嫌いでしたね。スタッフは皆同じスタッフじゃないかという、非常に公平な人です。だから誰かを可愛がることもしないし、一生懸命やっても普通にやっても同じ(笑)。それがいやな人間も出てくる。分裂騒ぎを起こした人たちは、自分たちがこんなに一生懸命やっているのに、何で評価してくれないのかと思っていたと思います。
間宮
:
適度に距離を置いてやっている連中と、我々は違うと……。組織で必ず出ますよね。
米沢
:
でも、彼は一緒だとみんなスタッフだと言う。
間宮
:
そういう風に割り切るのは難しいですよね(笑)。片や一生懸命に、片や普通に、場合によってはタラタラやっていたりするのを、一緒に扱っていくのは本当に大変だ。
米沢
:
実際、もしかしたら彼にとって分裂騒ぎは意外と傷だったのかもしれません、結局判ってくれなかったという……。何度も話はしていましたが、当時の彼らにはわからなかったんです。彼らは、ただ即売会だけではなくて色んなことができるのではないかと可能性を見いだそうとしていました。ちょうどアニメとかが盛り上がってきた時期なので、声優さんとか呼ぶこととか色々な夢を見ていました。ところが、コミックマーケットというのはそういうものを全部取り払った形で作ったものなんです。「その方向性は先祖返りなんだよ」と説明してあげたけど判ってもらえなかった。
藤本
:
全部取り払うというのは、どういう方針で取り払うって決めたんですか?
米沢
:
コミケットの前に漫画大会っていうのがあって、ゲストを呼んだり、講演会やったり、ステージやったりしていたのですが、それが段々スタッフ内部の格差とかにつながっていったりしていて。同人誌の即売というのは、その中のひとつの催しに過ぎなかった。でも、米沢たちはただ新しい面白いマンガを読みたいだけだから、コミケットではそういったものは取り払ったんです。
間宮
:
色々なイベントをやりはじめると、主客が転倒しかねない。有名な人たちとか今流行っているものとかを出してくると、何のためにこっちで即売会をやっているのか、という疑問が当然でてきますよね。だから、そういうところを切り離して即売会が『主』なんだから、それだけをやっていく発想なのですね。
藤本
:
確かに有名人を呼ぶと、その人を中心に関わる人が偉い感じになってくる。みんながそれをしたいみたいな話になり……。じゃあ、誰を呼ぶんだという話になる。
間宮
:
そこでまた揉める(笑)。
米沢
:
そういうことから実際に内部崩壊してくるのをずっと見てきたから、それを見切った形でコミケットは生まれました。
森川
:
おたくは有名な作家さんとのコネクションを自慢したがる傾向が強いから、そういうコネを持つ幹部の人たちが偉い作家を呼ぶことをイベントの主軸にし始めると、一般の参加者との間に格差ができてくる。
米沢
:
これまでコミケットがやってきているサークルもスタッフも一般も全部参加者という、全員同じ立場にいるというのと違ってしまいます。一般参加者からただのお客さんになってしまう。そうすると入場に当然お金を取るという方向になるわけです。
間宮
:
来て即売会でものを買う人たちもお客さんではないんですね。
米沢
:
お客さんではありません、あくまで一般参加者です。そして、いわゆる入場料は取らない。マーケットに入るのに入場料いらないだろうと。
間宮
:
でしたら、さっき言ったような色々なイベントをやり始めると、なおさら主客転倒になってしまうでしょうね。金だけ取ってどれだけ人気のイベントができるかが先だって、何のための展示即売会か、何のための参加者だっていう話になってしまう。今後やはり、このまんまの形でずっと動いていくことになるのですか?
米沢
:
会場がビッグサイトになってからは、実は全部あります。企業ブースというところで、そういったイベントも受け入れています。
安田
:
ただ、企業に対してもコミケット独特のスタンスがあります。よそではお客様かもしれないけど、コミケットではお金払ってもらうけれども、参加者としてしか受け入れない。普通ではないのですが我慢してください(笑)。いまだに企業向けの説明会では、最初の30分くらいかけて、それを延々と話して、それでもよければ契約書に判をついてくださいと。
森川
:
会場のレイアウトにもそれが現れていますね。広くて中心的なホールをサークルスペースが占めていて、混成型のイベントでは中央に配置されることの多い企業ブースが、逆に出島のようなところ追いやられている (笑)。
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