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  明治大学TOP > 東京国際マンガ図書館 > 米沢嘉博記念図書館TOP > 企画ページ > 「評論家としての米沢嘉博を語る公開トークライブ」第1部3項
 
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●ある物を全部認めよう
村上君は初期の頃の米沢君の評論を読んでいるんで、その辺ちょっと紹介してください。
村上 先ほどの迷宮が出していた『漫画新批評大系』に書いていたものが、多分一番初期のものだと思います。この同人誌では、「戦後少女マンガの流れ」という連載を戦後少女誌研究会という集団名義で、それ以外に相田洋名義で原稿を書いています。前者は『戦後少女マンガ史』の原型になるわけですが、相田洋という名前で書いていた評論の方は、グロテスクというのがテーマで、諸星大二郎さんとか山岸凉子さんといった作家について、異形とか奇形などのイメージで捉えた個々の作家論みたいなのを書いていた。それはとても印象的でした。割合レトリックを使って華麗に語る人が多かった迷宮の中で、どちらかと言うと、自分の好きな物にどんどん入り込んでいくような語り方で、異色の個性がはっきり出ているものでしたね。それが彼の後の仕事に全部繋がっているんだと思うんです。
熊本は私も大変好きな街でして、「よかよか」と認める大変に包容力がある街であるのは事実だと思うんです。でも、私はそれは米沢君の場合ちょっと違うような気がするんです。米沢君と私は7歳しか歳が違いませんから世代的に非常に近い。だいたい60年代後半に青春期を送っている。私の場合は大学時代で、米沢君が高校くらいです。その意味では時代の精神というのを共有しているところがある。だから、こういうつもりでこういうことを言っているんだなとか、こういうつもりでこういうことをやってるんだなとか、割とまあ直感的に判るところがあります。米沢君の場合、やはり60年代の後半に青年期・思春期を送った者として、ポピュラー・カルチャーへの信頼感っていうのが非常に強かった。ポップカルチャーに関しては取りあえずあるものは一応全部認めよう、評論というのは、その次にすればいいんで、まずポップカルチャーのエネルギーを認めていこうという姿勢があったんではないか、というのが同時代人としての私の直感です。それが、先ほどからでている、資料を博捜してどんな資料であってもとにかく集めて、それを編年体に編んでゆくという彼の仕事に繋がっていったのではないでしょうか。
村上 あるもの全てを認めようということが、その中で何かを特別視したり、弾き出したりすることに抵抗しようということに繋がってるんだと思うんです。その意味では、彼が守ろうとしたものは、非常に沢山あったような気がします。
藤本 だからずっと規制の問題にも関わっていらした?
村上 そうだ、言い忘れましたけれども、「有害」コミック問題の時は一緒に「創」の篠田編集長と一緒に色々やってました(笑)。そういうイベントにも必ずパネラーとして出て、単にタテマエや原則を言うのでなく、具体的に現実を踏まえて発言して、説得力あることをおっしゃっていたと思うんです。
藤本 「有害」コミックの時もそうでしたし、児童ポルノ禁止法の時の反対アピールもご一緒したことを覚えています。
村上 『売れるマンガ 記憶に残るマンガ』の中にもそういう話が具体的に出てきます。本当に評論やりながら同時にスポークスマンとしての役割を殆ど全部一人で引き受けてきたんだなあと。
次に出るであろう『戦後エロマンガ史』では、エロマンガの総体を扱っているんですけど、この場合エロマンガの総体を扱うということ自体がひとつの彼の主張になってくる。当然ながらあらゆるポルノグラフィーは基本的にその8割ぐらいは、実際の性行為の代用品として扱われているわけで、代用品はだいたいがバカにされる。実際のセックスを100点としますと、この代用品は非常によく出来てるので80点であるとか、あんまりよく出来ていないので30点であるという評価のされ方しかされないのですが、実は代用品は代用品としての独立性をある時から主張し始めるということがある。簡単に言いますとインスタントラーメンは本来のラーメンの代用品だったのが、ある時点からインスタントラーメンというひとつの独立した食品になっていくわけです。同じようなことがポルノグラフィーにも当然考えられるわけで、米沢君のこの仕事は、ポルノグラフィーが独立した存在になっていく過程が、戦後のエロマンガを見ることでわかってくるんです。当初、マンガというジャンル自体が、やはり第2級の物として扱われていたので、代用品としてのセックスと扱われていた。そして、ヌード写真よりも劣るものとして扱われていたにも関わらず、ある時点から、マンガでなければ表現できない性描写、それは実際の性行為の時にも体験できないようなもの、何故ならば人間の内面がそこには描かれるわけです。このようなことも含めて、これがまとまりますと大変重要な仕事になってきますし、ただマンガのみならず、人間の精神史上、非常に重要な作品になることは間違いない。これをあと1、2回残した段階で米沢君が亡くなったことは大変残念ですけれども、一日も早く活字になって書店に並ぶことを私たちは望んでいます。
藤本 米沢さんのもうひとつの仕事として、「別冊太陽」で『発禁本』というシリーズを出されてまして、これは日本出版協会・協会賞を受賞してます。単純に規制問題に反対するとかアピールをあげるだけではなくて、表現規制がどのように歴史的になされてきたのかについてもちゃんと研究なさっていたということなんですね。そういうところにやっぱり米沢さんの姿勢が現れています。
面と向かって戦わないのですね。
みなもと 丁々発止というか、いかにこう上手に受け流していくかというのが、凄い。真正面からやると結局ぶつかり合いだけでは済まないのだけれど、彼の場合そういうのが来ても、右へ左へ右へ左へずーっと逃すのが上手かった。
村上 やはりそれが戦略であって、そうすることによって結局生き延びさせるということです。
『戦後少女マンガ史』が早くに絶版になって、ちゃんと読まれるということがなかったので、読んでた人でも印象に残ってなかったり、ものすごく公平な書き方をしてあるばっかりに、飛び抜けた主張としてそれが受け取られてなかったりすることがあると思うんです。藤本さんが現在、筑摩書房で文庫化を進めておられるそうですが、そういう意味で今改めて、目に触れる形にするということはとても意味がある。未だに、彼が書いた物かどうか明らかになっていないものとかも沢山あるみたいなので、そういうものがこれから発掘されて、どんどんまとまっていくといいのではないかと思います。それでは、皆さん、今日はどうもありがとうございました。
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