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  明治大学TOP > 東京国際マンガ図書館 > 米沢嘉博記念図書館TOP > 企画ページ > 「評論家としての米沢嘉博を語る公開トークライブ」第1部2項
 
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●エログロナンセンス
唐沢 米沢さんは萌えマンガとかまで目を通しておられたんですか?
ベル 何でも読んでましたよ。結構斜め読みみたいにぱらぱらと読めちゃったみたいです。でもちゃんと覚えていますね。
唐沢 記憶力がすごかったっていうことですかね。『藤子不二雄論』を書く時はもう一度読み返すわけですよね?
伊藤 『藤子不二雄ランド』という藤子さんの全集がありますけども、藤子さんには学年誌にしか載っていなくて単行本や全集にも未収録というような作品が膨大にあって、その辺りも読み直していたみたいです。ただ、読み直すっていうのは、あくまで記憶の補完というんでしょうか、新しい発見のためというよりは、書きたいこと、書くべき内容とかはほとんど頭に入っていて、それを書くために一応の事実確認のため以上のものでは無かったんじゃないかと思います。
唐沢 エロマンガも覚えていたんですか?
浅川 覚えていたと思います。エロマンガ史、業界全体のその時々のトレンドや栄枯盛衰はもちろん、個別の作家に関しても、例えば貸本から流れてきた作家が、その後エロマンガに行って名前を変えて描いていたといった、エロマンガ家の別ペンネームとかにものすごく詳しいんです。別ペンネームといっても、その作家のかなりのファンでなければ普通は気付かないようなスタイルの特徴や時代による移り変りを、すべての作家について把握していたような印象がある。これがわかるためには作家の全キャリアを通して作品をチェックしていなければならない。全体を俯瞰すると同時に、細部までも記憶している。こんなことができるのは、米沢さん以外に誰もいません。
唐沢 それはマンガが好きだから、それともエロマンガが好きだから(笑)?
伊藤 どっちもでしょう。手塚治虫の評論もいつかまとめたいって昔からおっしゃっていて、一度「あかまつ」という雑誌で手塚治虫のエログロナンセンスについて書かれている。これは本当は4回ぐらいのシリーズの予定だったのが、いろいろあって雑誌がなくなってしまって、1回しか書かれなかったんです。だから、たぶん手塚治虫を語る時にも、本当に語りたかったのはエログロナンセンスだったと思います。その「あかまつ」の文章には「戦後マンガ史三部作も1冊目が少女マンガ、2冊目がSF、3冊目がギャグ、という順番で書いたのは僕なりの意図があった」と書かれてまして、それは「1冊目がエロ、2冊目のSFがグロ、3冊目のギャグがナンセンス、つまり、エログロナンセンスとして書いた」とおっしゃっている。ですから、B級モノっていうのは、かなりの部分エログロナンセンスで通じているのではないでしょうか。
唐沢 そのエログロナンセンスがお好きというのがマンガ以外のところまできて、「別冊太陽」の『発禁本』三部作にも通じている。城市郎さんのものすごいコレクションを、網羅してその上で更に分類するっていう、日本の書誌学上の大変な功績ではないかと思います。変な話ですが、どれぐらいの方に読まれたんでしょうか。この『発禁本』は?
野口 あのシリーズの中では売れた方だと思います。
唐沢 はっきり言って『発禁本の世界』はマニアは買うでしょうけれども、一般の方々がどれだけ自分たちの世界に関わってくるものと認識していいかわからないものをちゃんと読ませるだけのものにしてしまうという、その力量がすごい。名文家、というようなものではなく、かつその論旨に特に個性というかそれが強く出ているわけでもない。ただひたすら、先ほどおっしゃられたような愛でしょうか。
野口 米沢さんは『乱歩の時代』の冒頭で「現世は夢、夜の夢こそ真」という乱歩の言葉を引用しています。これは、きっと米沢さんが好んだ言葉だと思うんです。その乱歩が生んだ大正の終わりから昭和の初めのエログロの時代、混沌としたB級文化の持っているエネルギーや蠢くような人の情熱が、彼は好きだった。その流れのひとつとして、マンガの中にも広く見られたということだと思います。彼の中では、原点はマンガや文学といった個別のジャンルでは決してなかった。だから、もうあと5年経った時の彼は、マンガ評論だけではなくて、さらにもっと大きな仕事を、また違った角度からしようと思っていたんじゃないかと思っていますし、そういうことが出来たのはきっと彼しかいないんじゃないかと思って、残念でたまりません。
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