トピックス

ニュース

「トビタテ!留学JAPAN」体験記①

2024年01月10日

  • 高校
  • 教育・進路
2023年度、明治高校3年生のなかから、2名の生徒が「トビタテ!留学JAPAN」に採用され留学を経験しました。このプロジェクトは、文部科学省を中心とした産学官一体の留学促進キャンペーンで、2023年度から新たなビジョン及びコンセプトを掲げた第2ステージ(2023年度~2027年度)として実施されているものです。このうちの一人である岡さん(高3)にお話を伺いました。

国際奴隷博物館

高校生が自由に「トビタテ」る留学プログラム

インタビュアー(以下、イ):「トビタテ!留学JAPAN」を知ったきっかけは何でしたか?

岡さん:実は母親がたまたま見つけて、「こんなプログラムがあるよ」と紹介してくれたのがきっかけです。留学には興味があったのですが、なかなか自分に合うものがないなと思っていました。そんなとき、自分で自由に行き先や目的を計画でき、返済不要の奨学金もあるということで、これなら自分のやりたいことができると考えて応募を決めました。そして、学校から申請する必要があるので、学年の英語科の先生に相談しました。

イ:応募までのプロセスを教えてください。

岡さん:高1の地理の授業で世界遺産に興味を持ち個人的に調べていたので、そこから研究計画を考えました。世界遺産の中でも話題性のあるところに行きたいと考え、ウィーン(オーストリア)、ベネチア(イタリア)、パリ(フランス)なども考えましたが、最終的にリバプール(イギリス)を選びました。リバプールが世界遺産から2021年抹消されて話題性が高かったこと、その遺産が大西洋奴隷貿易という負の歴史と関わるものであったことが主な理由でした。私がビートルズを好きだったという「不純」な理由もあります(笑)。

イ:なるほど。応募書類作りは大変したか。

岡さん:簡単ではありませんでしたが、書類を作りながら付属校の利点を強く感じました。

イ:というと?

岡さん:先を見通すことができているので、研究の一貫性を保ちやすいということです。付属校生として、進学する学部・学科を見据えて留学を計画し、志望理由書を書くことができたので、一貫性のある研究プロポーザルになったと思います。この点は、後輩たちも意識してほしいと思います。

イ:岡さんは、明治大学でも地理を勉強したいとおっしゃっていましたね。

岡さん:そうです。そのことを意識しながら見通しをもって研究計画を立てました。ただ、書類の量は多かったので、国際連携係の先生やこれまで教わった先生に何度も相談するなど、とてもお世話になりました。

負の歴史をいかに継承するのか?

イ:書類選考や面接選考を通して、5月ごろには採用が決まったそうですが、そこからはどんな準備をしたのでしょうか。

岡さん:リバプールで行う研究について2つのことを考えました。まず、リバプールが都市の再開発によって世界遺産を抹消されたことから、世界遺産の保全について調べようと思いました。そこで、本を読んだりして調べ始め、現地の研究機関や博物館などに問い合わせのメールなどを送りました。しかし、残念ながら返事をもらえませんでした。この計画を進めるのは難しいと判断し断念しました。

イ:それは残念でしたね。

岡さん:はい。そこで、次に考えたのが、大西洋奴隷貿易や人権問題と絡めて歴史をどう継承していくかという問題です。世界遺産とは華やかな歴史だけではなく、負の遺産も継承していく必要もあるのか、それをどう扱っていくべきなのかを考えたいと思ったからです。

イ:なるほど。

岡さん:リバプールの歴史を知ることから始めようということでまた本を読み、現地でフィールドワークをできそうな場所を調べました。その結果、国際奴隷博物館での調査、教員・市民へのインタビューや街頭調査、現地で売られている絵本なども含めた資料収集などを通して、どのような歴史認識が継承されているのか明らかにしていこうと考えました。

リバプールで収集した資料

多様性に衝撃を受けた1か月

イ:実際にイギリスに行ってみて、いかがでしたか。

岡さん:721日から820日までの約1か月間、留学しました。まず調査とは直接関係がないのですが、イギリスの気候に驚きました。私が行っていた時期はとにかく晴れない。何となくは知っていましたが、実際に体験することで、青空のすばらしさが身に染みてわかりました。体験といえば、語学学校で様々なバックグラウンドの人たちと出会えて、議論したことも貴重な体験でした。イスラム圏から来た人たちと政治の議論になった時、私たちが当たり前のものだと思っていた選挙を「必要ないものでは?」と言われ、自分が絶対だと思っていた価値尺度も限定的なものだと感じました。多様な文化との出会いはとにかく衝撃的でした。

イ:研究調査の方はどうでしたか。

岡さん:最初の1週間は生活に慣れることを優先して、23週目に街頭調査を試みました。事前に作成したアンケート用紙を作って国際奴隷博物館のイメージ調査を行い、また、リバプール市民については歴史教育でどのようなことを教わってきたかを調査しました。110人を目標に、駅、バス停、ショップなどで時間のありそうな人たちに声をかけ協力してもらいました。調査中に、一度、人種差別的な言葉を浴びせられたりして、辛い思いと共に差別の深刻さも身をもって体感しました。また、博物館の史料室などでも資料調査もしましたが、かなり難易度が高く苦戦しました。

イ:それは大変でした。成果はいかがでしたか。

岡さん:まず、国際奴隷博物館の他にも同じエリアに博物館がいくつもあり、博物館ごとに扱っている内容が異なるため、様々な観点からリバプールのことを学べました。そして、学校の課外授業や親に連れられて博物館に行っている人が多く、博物館がリバプール市民にとって身近な存在だということがわかりました。実際に、見学をしている小さな子どもたちの姿をたくさん目にしました。博物館が無料というところも関連しているのかもしれません。
 また、特に国際奴隷博物館のおいては、奴隷貿易という人権侵害に関わった国として、その歴史を教訓とし、異文化理解や多様な人種間の共生といったような未来思考的な展示が多かったと思います。未来志向であることで、負の歴史遺産を継承していこうという積極的な風土があるのは素晴らしいと感じました。ただ、同時に、このことは社会にいまだに人種差別が残っていることを物語っているようにも感じました。

付属校の環境を生かしたチャレンジを!

イ:面白い発見ですね。今後、この経験をどうつなげていきたいですか。

岡さん:今回は研究計画を立てて、とにかくやってみるという貴重な経験を積めました。自分がわからないことについて調べ行動することの面白さと難しさを感じました。今回は不十分な点も多々ありましたが、今後、明治大学に進学して研究をしていくことが楽しみになりました。また、「トビタテ!留学JAPAN」の事前・事後研修で、全国から集まった志のある同世代に出会えたこともとても刺激になりました。何人かとは今でもつながりを持っています。

イ:積極的に、前へ踏み出したことで、素晴らしい体験ができましたね。最後に後輩へのアドバイスがありますか。

岡さん:一般的に、高校生は金銭的な部分も含めてできることは限られていると思います。しかし、「トビタテ!留学JAPAN」のプログラムは、返済不要の奨学金などで、自分がやりたいことを実現する支援をしてくれます。私はかなり「真面目」な学術的なテーマを選びましたが、このプログラムは、芸術やスポーツなど幅広いテーマを自由に設定できるので、どんなことでも海外でやってみたいことがあればぜひ挑戦してほしいです。
 今年は私を含めて2名の生徒が明治高校から選ばれました。明治高校なら大学受験にとらわれる必要もないですし、また、ほぼ第一志望の学部に進学できるので大学生活を見通して研究提案をできるという恵まれた環境があります。この環境を生かして、後輩の皆さんにも積極的に留学にチャレンジしてほしいと思います。

イ:今日は冬休みでしたが、長い時間、ありがとうございました。「トビタテ!留学JAPAN」第2ステージの新たなビジョンは「日本の若者が世界に挑み、本音と本気で国内外の人々と協働し、創造と変革を起こす社会」で、そのコンセプトとして「Challenge, Connect, Co-create」が掲げられています。明治高校の後輩のみなさんも、世界をつなぎ、創造するためにチャレンジをしていってほしいと思います。高1・2の皆さん向けの次年度の応募締め切りがすぐそこに迫っています。応募を考えている人は早めに学年の担当教員に相談してください。

国際奴隷博物館の史料室で大西洋奴隷貿易を調査

100件の街頭調査で収集したアンケート

関連トピックス