氷河時代のヒト・環境・文化 THE ICE AGE WORLD

2012年度明治大学博物館特別展
氷河時代のヒト・環境・文化 THE ICE AGE WORLD 
(1)実施形態
主 催 明治大学博物館
共同企画 明治大学黒耀石研究センター
会 期 2012年10 月12 日(金)~12 月12 日(水) 62 日間(会期中無休)
会 場 明治大学博物館特別展示室
入場料 ¥300
入場者数 3,647名
企画構成 島田和高(明治大学博物館)

(2)趣旨
 2000 年に発覚し,考古学界を揺るがした「前・中期旧石器時代遺跡ねつ造」事件の後,日本列島最古の人類文化はどのように探求されたのか?最初のヒトの足跡はいつ,どのように現れるのか?最初のヒト達は,どのように新天地を拓いたのか?これらは,日本列島を舞台とした人類史の基底に関わる重要な問題として学界のみならず,ひろく市民の興味を引きつける。本特別展は,考古学・人類学の分野で近年さかんに取り組まれている日本列島へのホモ・サピエンス(現代人)の拡散と定着について,日本各地の最古級の考古資料を用いて,研究の現状と考えうるシナリオの紹介を試みる。
 「現代人の拡散」は約20 万年前~3 万年前にかけて生起したグローバルな現象である。展示では,現代人が世界各地に拡散を繰り広げていた最終氷期の気候変動,またヒトと共存した絶滅動物の紹介を導入とする。
 次にメインテーマである,日本列島への現代人の拡散と定着について,北海道から九州まで,全国各地から出土している4 万年~3 万5 千年前の最古級の旧石器を一堂に展示し,最新の学説を分かりやすく紹介する。展示品は,全国約30 カ所の博物館・研究機関から借用し,「最古の列島人類文化」の全体像を一望することが出来る。
 展示は,明治大学黒耀石研究センターと共同で企画する。展示コンテンツには,センターの所在地である長和町(長野県小県郡)と明治大学が共同で蓄積してきた黒曜石と人類史に関する研究成果,そして文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「ヒト—資源環境系の歴史的変遷に基づく先史時代人類誌の構築」の研究成果を盛り込む。

(3)展示構成
(1)最終氷期の気候変動と絶滅動物
大型研究「ヒト—資源環境系の人類誌」共同研究者達によって提示されている最終氷期(6 万5 千年前から1 万年前まで)の気候変動と日本列島旧石器文化の年代測定結果を1 枚のタペストリーにまとめ,氷河期(最終氷期)の全体像を紹介し,展示の導入とする。アフリカで進化した現代人(ホモ・サピエンス)は,アフリカから出立し後期更新世(約12 万年~1 万年前)のうちに旧世界とオーストラリア,そしてアメリカ大陸まで拡散した。その拡散ルートとして近年注目を集めている「海岸移住(coastal migration)」仮説を紹介する。また,その移住の過程で現代人が世界各地で出会った更新世に絶滅した大型ほ乳動物を実物化石と化石レプリカを交えて紹介する。
■1-1. 展示の目的とEUP の世界 ■1-2. 現代人の拡散と絶滅動物
(2)EUP(後期旧石器時代前半期)の世界
日本列島の後期旧石器時代前半期(the Early Upper Palaeolithic: EUP)は,日本列島に現代人が到達し,さまざまな足跡を残し始め,にわかに列島が賑やかになる時代である。彼ら現代人が残した遺物からは,海洋や山岳部など居住に適さない地への進出や,片道100km を超える移動生活,日本列島旧石器時代史上最も独特な景観をなすムラ跡など,生き生きとしたパイオニア達の暮らしぶりがうかがえる。展示は日本最古の石器群,太平洋上の神津島,そして霧ヶ峰・八ヶ岳の黒曜石原産地の開発と黒曜石の広域分布,環状のムラとよばれる独特なムラ跡の実態と現代人の列島定着に果たした役割ほかを紹介する。また,現代人によって初めて獲得されたとされるシンボリックな行動の表れである装身具や線刻品,顔料を展示する。
■2-1. 最古の石器文化を求めて ■2-2. 環状のムラ,登場 ■2-3. 環状のムラ,消滅
■2-4. コラム:装飾品・墓・シンボル ■2-5. 海をわたり,山をひらく
(3)ヒト—資源環境系の人類誌
黒耀石研究センターは「ヒト—資源環境系」をキーワードとした先史時代研究を実施している。ヒトが手に入れる生活物資を資源と考え,その分布や産状を調べ,ヒトによる具体的な獲得や消費の実態を復元することを目的としている。「ヒト—資源環境系」研究の重要な研究対象の一つが黒曜石原産地である。センターは,標高1400m にある広原(ひろっぱら)湿原とその周辺陸域において,黒曜石原産地と原石の産状,遺跡の分布,人類活動の内容,そして気候・植生・年代・火山灰などの古環境を総合的に研究している。展示は,センターが発掘調査と古環境調査を近年実施している広原湿原の調査成果を公開する。
■3-1. 黒曜石をめぐる人類活動—広原湿原調査成果— 

(4)展示資料概要
1.資料数 833 点(内借用資料822 点、館蔵資料11 点)
2.出展協力機関
秋田県立博物館,秋田市教育委員会,飯田市上郷考古博物館,飯田市教育委員会,印西市教育委員会,帯広百年記念館,帯広百年記念館埋蔵文化財センター,神奈川県教育委員会,神奈川県埋蔵文化財センター,鎌ヶ谷市教育委員会,鎌ヶ谷市郷土資料館,川南町教育委員会,川南文化ホール・図書館複合施設,鹿児島県埋蔵文化財センター,群馬県埋蔵文化財調査事業団,国分寺市教育委員会,小平市教育委員会,埼玉県埋蔵文化財調査事業団,埼玉県立さきたま史跡の博物館,静岡県埋蔵文化財センター,信濃町教育委員会,千葉県教育委員会,鈴木遺跡資料館,千葉県立房総のむら・風土記の丘資料館,調布市教育委員会,調布市郷土博物館分室,津南町教育委員会,津南町農と縄文の体験実習館なじょもん,東京都教育委員会,遠野市教育委員会,遠野まちなか・ドキ・土器館,長野県立歴史館,成田市教育委員会,沼津市教育委員会,沼津市文化財センター,野尻湖ナウマンゾウ博物館,原村教育委員会,府中市教育委員会,府中市郷土の森博物館,府中市埋蔵文化財整理事務所,北海道立埋蔵文化財センター,宮崎県埋蔵文化財センター,三芳町教育委員会,三芳町立歴史民俗資料館,武蔵国分寺跡資料館,山梨県立考古博物館

(5)特別展連動講座
第51回明治大学博物館公開講座「考古学ゼミナール」
特別展連動講座『氷河時代のヒト・環境・文化 THE ICE AGE WORLD』
日 時 2012年10月12日(金)〜11月9日(金) 18:00~20:00(全4 回)
会 場 リバティタワー教室
受講料 5,000 円
参加者 のべ278 名
講座趣旨 私たちの祖先であるホモ・サピエンス(現代人)がアフリカで進化したのち、どのように全世界へ拡散していったのか?日本列島に残されている氷河期の化石人骨について、どのようなことが分かっているのか?氷河期の人類と共存した動物たちの運命は?日本列島に最初に定着した氷河期の人々は、どのような生活をしていたのか?これらの問題は、人類の進化と歴史を探る人類学・考古学などの分野では、とても重要な課題として注目を集め、多くの研究者が議論しています。本講座と博物館特別展「氷河時代のヒト・環境・文化 THE ICE AGE WORLD」では、そうした取り組みの一端を紹介します。
 プログラム 第1 講 10/12 「ユーラシア東部における後期旧石器時代の成立」 佐藤宏之(東京大学)
第2 講 10/19 「日本の旧石器時代人骨はどこまで遡るか:列島に原人や旧人は渡ってきていたか」
松浦秀治(お茶の水女子大学)
第3 講 11/02 「最終氷期に生き、そして絶滅した象たち」 高橋啓一(滋賀県立琵琶湖博物館)
第4 講 11/09 「日本列島にヒトが現れた頃:EUP の世界」 島田和高(明治大学博物館)

(6) 特別展映像デジタルコンテンツの作成
 2012 年度特別展「氷河時代のヒト・環境・文化 THE ICE AGE WORLD」の映像デジタルコンテンツ(約30分)を制作し博物館ホームページにおいてストリーミング公開した。
 制作・著作:ユビキタス教育推進事務室・明治大学,制作協力:アイフォスター