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明治大学広報
第575号(2006年9月1日発行)
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「セネカ」 角田 幸彦 著 (清水書院、850円) 
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 生きる苦悩と不安に悶える魂に語りかける静謐の哲学、魂の教導者。多かれ少なかれこうした理解が一般的なセネカ像である。しかし、ギリシア・ローマ精神史からするとセネカの全体像ははるかに立体的で、その人物像も複雑で豊かである。セネカとパウロ、倫理学者セネカと俗人セネカ、哲学者セネカと悲劇作家セネカなど従来の解釈上の問題について英・独・仏・伊の研究動向に触れつつ著者自身の見解が至るところに披瀝されている。 大釜で煮えたぎるような帝政ローマの欲望と権力闘争。喜びと苦悩、愛と憎しみ、寛容と憤怒に喘ぎながらセネカの生涯は自害で終わりを迎える。まるでイタリアオペラのハイライトそのものである。著者の熱のこもった筆致はきわめて説得的で、関心はおのずからセネカの倫理・哲学・悲劇作品の世界に向かっていく。すでにキケローについて大部の研究を完成した著者によって、セネカの全体像が太い骨格の下に鮮明に提示されている。
 
これまではごく少数の文献による限られたセネカ像の紹介に止まっていたが、本書の出版によって、我が国においてもようやくセネカの人と思想の全貌に簡潔にアプローチする道が切り開かれることとなった。

大崎博・文学部講師(著者は農学部教授)


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