第578号(2006年12月1日発行)
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「キケローにおける哲学と政治」−ローマ精神史の中点−
角田 幸彦 著 北樹出版、8500円 |
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本書の著者角田幸彦博士は、学位論文『アリストテレスにおける神と理性』をはじめとして、本格的な学術書を次々と世に問うてこられた。今回、これまでのご専門の領域であった古代ギリシャ哲学ではなく、古代ローマ哲学について、キケローを対象として、厖大な欧米の文献を逐一読破し、502頁の大著を刊行された。ただただ驚嘆のほかない。
本書は、ヘーゲルや古代史の大家モムゼンなどによって独創性のない人物ときめつけられたキケローについて、実は反対に、現実政治との緊張関係の中で思索を展開した、すぐれた哲学者であった事実を明らかにする。元老院議員として、ローマ共和政を死守しようとしたキケローに「最も充実した哲学と政治の相乗・緊張・共鳴を見る」(186頁)のが著者の立場である。軍事独裁体制確立を目論むカエサルと対比させて、キケローの言論活動が考察され、『国家について』『法律について』『弁論家について』の三大主著にも透徹した分析が加えられる。
本書が、古代哲学史だけでなく、西洋古代史、西洋政治思想史の研究者にも強烈な学問的衝撃を与えることが期待される。
三宅正樹・明大名誉教授=元政治経済学部教授(著者は農学部教授)
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