第582号(2007年4月1日発行)
本棚
「フランケンシュタイン」
山田麻里 ほか著 (久守和子 ほか編著)
ミネルヴァ書房、2600円 |
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「出産育児は崇高な営み」──この首相発言は、厚労大臣をフォローするどころか、問題をさらに深刻化させるとしか思えないが、大きな批判は起こらなかった。産み育てる性として女性は「神話」化されている。
本学の山田論文「出産神話としての『フランケンシュタイン』」は、産業革命期イギリスの出産事情を詳らかにし、作者メアリ・シェリー自身の出産経験を基にした「現代のプロメテウス」=フランケンシュタイン創造(=出産)という神話形成を解きほぐす。男性支配の社会は、科学を駆使し、女性の身体「機能を暴き、生殖と助産を統御しようとする」(72ページ)。それに対し、作者メアリ本人が、近代・父権制に対する反逆者=プロメテウスとなり、「神話」に支配され続ける現代にも、反逆の炎が届けられた思いで読了した。
12の論文それぞれが、メアリの魂の炎を読者に届けたいという熱い想いに溢れている。それは、全体の編集の妙と資料の充実からも伝わる。秋の西風吹き荒ぶ昨今の文学研究・教育界に、希望のクラリオン高らかに鳴り響く。「冬来たりなば春遠からじ」(P・B・シェリー)
宇野雅章・文学部講師(著者は文学部講師)
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