「自分はまだまだです・・・」。武田茂之(法3)の口癖だ。その絶対的な練習量とは裏腹に、口をついて出る謙虚な言葉。礼節をわきまえ、その佇まいに思わずこちらも頭を下げずにはいられない。今どき真っ直ぐ過ぎる柔道家である。 使い古された言葉だが武田には“根性”という言葉がよく似合う。半月板損傷、内側靱帯(じんたい)損傷─長年の激しい稽古は武田の左ひざをむしばみ、手術を強いられるほどの重症であった。だが手術に踏み切ったら、再度畳に上がれる保証はなかった。「結局は気持ち次第」。武田は痛みをこらえながら、畳で生き続ける決意をした。 その覚悟が形となった東京学生選手権。常に全力、どの瞬間を切り取っても闘志が溢れていて、傷を抱えた男の柔道とは思えなかった。インカレの予選ながら、計り知れない精神力で最激戦区の81キロ級を制覇した。だが優勝後の取材では喜びを抑え、口は真一文字。またも自分はまだまだ、と卑下した。手負いのエースが胸を張り『自分が一番です』と口にするその日まで。武田の魂の柔道を追い続けたい。 (たけだ・しげゆき 法3 大成高出 173センチ・80キロ) 文・写真:原 昂之(経営3) 明治大学体育会柔道部 明大スポーツWEB 前のページに戻る