経営戦略論についての議論はまさに百花繚乱を呈しているが、本書のタイトルにあるように、経営戦略論ではなくあえて企業戦略論としたところに本書の特徴をみることができる。経営における戦略を明治維新以降の近代化の過程で展開された西欧化モデルによる「同質化」という歴史的な視点に立って、現在の企業戦略を様々な資料にもとづいて企業の経済的活動のみならず社会性や企業倫理にまで踏み込んで論じられている。戦略論の端緒とされるチャンドラー、製品─市場をみすえたアンゾフ、さらにポーターの競争戦略を検討したのち、市場の寡占状態下の競争戦略、日本の近代化の企業戦略と戦後経済下という歴史的経緯、そして日本社会の同質性の高さから企業戦略を「同質化」という概念を軸にとらえている。本書は、４０年以上に及ぶ明治大学における筆者の研究活動の一区切りとしての経営学研究であり、本書で企業戦略という研究対象の本質を捉えるべき研究者側の責任を問うていることを、われわれは肝に銘じることが必要であろう。

　高橋正泰・経営学部教授（著者は経営学部教授）



前のページに戻る