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明治大学広報
第623号(2010年9月1日発行)
論壇
過去の知から未来の知の創造を
図書館長 吉田 正彦
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 昨年開催された私立大学図書館協会の例会で、ある理系単科大学の図書館長から、全面的に電子図書館にする計画であるとの話があって、出席者たちから驚きの声が挙った。それを聞いて、数年前に某大学で起った騒動を思い浮かべた。ある大学の理系学部で図書館書庫の負荷を軽減するため、発行年度の古い書籍を廃棄することにした。古い本は、そこに収められた情報も古いからという、至極明快な基準によるのだそうである。いざ実行に移したところ、同学部所属の人文系教員から苦情が相次いだが、結局は廃棄された書籍を教員個人が引き取ることで決着した。とても決着とは言えない強行決着だったことが話題を呼んだわけで、奇しくも自然科学系の知と人文知のあり方の相違を改めて考えさせられる出来事であった。

 十数年前研究所の総合研究を担当した。その際、15世紀から18世紀のヨーロッパで出版された書籍から記事十数点を複写で入手することができた。図書館職員が各国の主な図書館を調べ、取り寄せてくれたのである。これが理系であれば、古書の掲載論文など問題外であって、印刷されるより以前にインターネット上に公開される電子情報こそが、最新の「情報」と言えるのだろう。先の電子図書館宣言を、私はこう理解した。そして、2年ばかり前に訪れたある地方の公立大学の図書館がその雛型ででもあるかのように思い起された。学生総数が千人にも満たない開設10年の大学で、蔵書数もわずかである。放課後なのにそこには学生の影さえない。必要があれば借りに来るが、殆んどの学生は自宅のパソコンで電子ジャーナルを利用しているはずだという。

 ところで「電子書籍元年」と言われる今年、本学図書館の将来像をどうイメージしたらよいのだろうか。6月に国会図書館の納本審議会が公表した「オンライン資料」収集に関する答申によれば、冊子体の出版物と同様の編集過程を経つつインターネット等を通じて出版される電子出版物、これが従来の書籍や逐次刊行物に相当するという。とすれば今後は特に研究書の電子化の動向に注目したい。

 図書館は本学の教育と研究活動のための「知の拠点」である。だが電子出版物から如何に最新の情報が得られようとも、それは過去の知であり、図書館は「過去の知」の収蔵庫に過ぎない。私たちはこのことを改めて認識する必要がある。図書館の役割は、利用者諸氏がこの過去の知を積極的に利用し、そこから「未来の知」を生み出すための、黒子に徹することである。未来の知を目指して読書し思索する、こうした利用者が数多く集い、溢れる図書館であることを、私たちは願っている。

(文学部教授)



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