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ジェンダーセンター

シンポジウム『ファッションにおける失敗—ジェンダー、そしてデザインの否定芸術』開催報告

2024年01月15日
明治大学 情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター

2023年11月9日(木)開催
シンポジウム『ファッションにおける失敗—ジェンダー、そしてデザインの否定芸術』

【登壇者】ニック・リーズ=ロバーツ氏(ソルボンヌ・ヌーヴェル大学教授)
フランス・パリのソルボンヌ・ヌーヴェル大学メディア・文化・コミュニケーション学部教授、及び芸術・メディア学部のファッション・クリエイティブ産業修士課程ディレクター。
専門は、ファッション研究、映画研究、ジェンダー・セクシュアリティ研究、現代メディア・カルチャー研究。著書に『Fashion Film: デジタル時代の芸術と広告』(2018年)、『フレンチ・クィア・シネマ』(2008年/2014年)、『ホモ・エキゾチカス:人種、階級、クィア批判』(2010年)の共著者、『アラン・ドロン』の共編者: Style, Stardom and Masculinity(2015年)、Isabelle Huppert: Stardom, Performance, Authorship(2020年)がある。
【逐次通訳】小泉勇人氏(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)
【主催】明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター
【日時】2023年11月9日(木)15:20~17:00
【会場】明治大学駿河台キャンパス グローバルフロント グローバルホール
【企画・コーディネーター】高馬京子(情報コミュニケーション学部教授)
【来場者数】85名

【報告】高馬京子

 2023年11月9日、駿河台キャンパス・グローバルホールでシンポジウム「ファッションにおける失敗—ジェンダー、そしてデザインの否定芸術」を開催した。講師に仏・ソルボンヌ・ヌーヴェル大学メディア・文化・コミュニケーション学部教授のニック・リーズ=ロバーツ氏を招き、逐次通訳に東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授の小泉勇人氏に依頼した。情報コミュニケーション学部生など85人が聴講した。
 リーズ=ロバーツ氏は、デザイナーやファッションレーベルが廃業したり、ファッションから離れたりするという「失敗」がなぜ起こるのか、デザイナーがそれらの「失敗」をどのように管理するのかといった話題について、ジェンダーやセクシュアリティ、人種等の文化的アイデンティティの問題と関連付けながら話題を展開した。
 今日のデザイナーは、「クリエイティブ・ディレクター」、つまりブランドの商業的要求にクリエイティビティを合わせるコミュニケーターとして、業界によってより頻繁に宣伝されている。本講演では、このような(男性を中心とする)ファッションデザイナーによって提案されるデザインにおける失敗に関する個々の歴史と、伝統的なファッションシステムの問題、美的な不完全性、構造的な崩壊に焦点を当てて、成功やセレブリティの促進に投資され、誰も失敗することができないファッション業界の構造的断層を解き明かしたうえで、現代のファッションシステムにおいて様々なレベルでジェンダーとクィアネスの両方がいかに重要な要素であるかを検討した。これら、ジェンダーとクィアネスに焦点をあてながら、なぜデザイナーやレーベルは廃業したり、ファッションから離れたりするという失敗がおこるのか、また、デザイナーはキャリアの中でどのようにそれらの失敗を管理するのかといった問いを皮切りに、ファッションシステムにおけるジェンダー、クィアネスについて検討しつつ、デザイナーやクリエイティブ・ディレクターとブランドとの間の権力闘争や緊張、デザイナーとブランドとの間の適合と不適合の問題についても考察を行った。
 以上考察において、さまざまな事例や考えを紹介するとともに、現代ファッションが直面する問題を乗り越えるためにも最終的に「ファッションは必然的に『失敗』しなければならない」と結論付けた。
その後、デザイン面の「失敗」として、元来「エレガント」であった西洋の規範的な美意識をくつがえすものとしてみなされるとても醜いという意味をもつ「ファグリー“fugly”」という言葉や「かわいい」という特徴を提示しながらも、ジェンダーとファッション、商業とファッションなど、それぞれ切り離すことはできないが、改善されたほうが良い問題も抱えている題材を提示し、「失敗」ファッション、ジェンダーレスなファッションのトレンドに関する質問など、多数の質問が寄せられ、盛況のうちに終了した。
 終了後のアンケートでも、「ファッションにおける失敗の定義や、資本主義的な商業的な制度がもたらした弊害について多角的な視点から考察する意見が聞けて面白かった」「実際にフランスの大学の講師の方が来て貴重な体験となった。」「ジェンダーとファッション、商業とファッションなど、それぞれ切り離すことはできない[中略]問題も抱えている題材について興味深く拝聴した。」「(白人男性のデザイナーが多いという指摘に対し)人種や性別による理不尽な差別があるとすれば、それは改善されてほしい点だと感じました」など、リーズ=ロバーツ氏の講演を通して、ファッションとジェンダーの見方を学んだ様々な意見がよせられた。
 本講演は、ジェンダーを考える際に、ジェンダーアイデンティティを外面的に構築する一要素としてのファッションに着目し、ファッションを通して考えるジェンダーを検討する可能性を感じさせた講演であった。また本講演におけるフランスの大学に所属するイギリス人としての研究者がもつ、西洋のファッションブランドをジェンダーとの関係性においてクリティカルに分析する視座は、現在の西洋におけるファッションとジェンダーの研究の重要な可能性をわたしたちに示唆してくれたが、それらを東アジアに住まう私たちがどうみて、考えるべきなのか、今後考えるべき宿題を受講者に与えてくれたといえるだろう。また西洋のファッションを牽引するデザイナーが男性であることが多いなどジェンダーバランスの問題も挙げられている。
このように、現代社会におけるジェンダーについて、現代ファッションを通して検討するこの報告はジェンダーセンターで開催するのに意義深い講演であったと考える。

講演するリーズ=ロバーツ氏講演するリーズ=ロバーツ氏

(左から)質問に答えるリーズ=ロバーツ氏、小泉准教授、高馬教授(左から)質問に答えるリーズ=ロバーツ氏、小泉准教授、高馬教授

イベントチラシイベントチラシ