教員と研究

ワイヤレス通信の
可能性を
社会につなぐ。

電気電子生命学科 電気電子工学専攻 通信技術研究室
井家上哲史 教授
電気電子生命学科 電気電子工学専攻 通信技術研究室 井家上哲史 教授

人と人とはもちろん、車と車、ICカード、環境センサ、医療機器などいろんなワイヤレス(無線)通信が、いつでもどこでも好きなだけできる未来の実現を目指す通信技術研究室。ここでは、井家上先生の研究領域に至った経緯と、その魅力についてお話しいただきました。

電波の世界とともに。

小学校の頃は、いわゆるラジオ電子回路少年でした。お父さんが電気メーカーの技術者の友人がいて、彼の家に遊びに行くとラジオや電子回路の工作ができる環境がありました。実際にラジオをつくることで、気にしたこともなかったラジオの構造を具体的に理解できることにワクワクしたことを今でも覚えています。中学、高校ではアマチュア無線にのめり込みました。当時は山の規制が今ほど厳しくなかったので、無線機とアンテナを担いで山に登ってテントを張ってキャンプし、交信を楽しんだものです。そして、無線通信の仕組みをもっと知りたいと思い、明治大学の工学部電気工学科(当時)へ進学しました。

そこではNTTの前身である電電公社の研究所出身の先生の研究室に入り、電磁波をシミュレーションで解析する研究に取り組みました。大学院に入ると、理論よりも実験的な研究をやってみたいという気持ちが大きくなり、当時の郵政省の研究所に研修生として入所しました。携帯電話の電波の伝わり方について仮説を立て、検証していたのですが、研究所内のみならず、実際の町中で電波を計測し実験することで、社会との関わりを感じることができました。振り返ってみると、そういったより実務に近い場で研究できたことは、とても貴重な経験だったと思います。

これからの世界に必要な通信方式を。

私の研究室では現在、5Gの先にある次世代ワイヤレスネットワークを研究しています。ワイヤレス通信とは、線で結ぶことなく、メッセージや画像などの情報をやり取りする技術。身近なワイヤレス通信の例としては、携帯電話や衛星放送が挙げられます。情報の伝送は、電波や光といった波の力を借りて行います。波の状態を情報で変化させる「変調」と、変化した波から情報を取り出す「復調」によって、情報を送ったり受け取ったりできるわけです。

私たちは、人と人との通信に限らず、スマートフォンやパソコンなどのデバイスによる高速ワイヤレスインターネットや、車と車、ICカード、RF-IDタグなど、いろいろなものの間のワイヤレス通信が、いつでもどこでも好きなだけできる「ワイヤレス・ユビキタス・ネットワーク」の実現を目指しています。限りある周波数という資源を有効活用し、高品質・高速・大容量の通信を行うために必要な新しい通信方式を確立することが目標です。ここ数年は、数百MHzから数GHzという非常に広い周波数帯域の超広帯域無線(UWB:Ultra Wide Band)を用いた通信・測位システム、地上インフラが途絶えたときでも使えるVHF帯災害対応IoT(DR-IoT)無線システム、次世代衛星通信、MIMOなどの研究に力を入れています。

何をしたいか、を大切に。

ワイヤレス通信の研究は、基本原理に基づいた高性能化を研究するケースが多いように思います。私は高品質・高速・大容量の通信が実現した先の出口の部分、通信技術がどのように使われていくべきか、という点に興味があります。社会で広く使われるには「標準化」される必要があります。標準化とは製品が一定のルールに従って形状や寸法などの規格を定め、互換性を確保して安全に使用できるようにすること。通信機器が互いに通信できるようになるためにも不可欠な要素です。標準化のためには、車の通信なら車の最新事情を知らなければいけないし、医療機器ならその機能や抱えている問題をきちんと理解する必要があります。

私自身、本来の守備範囲とは異なる分野の研究室と交流したり、あえて畑違いの研究者と情報交換をしたり、アメリカへ行ったり、自らのフィールドから少し離れることを意識しています。そこから得られた視点はすぐに役に立つことではないですが、学生とのディスカッションや未来の社会を考えていくにあたってとても大切なことだと考えています。研究室では学生の「何をしたいか?」を大切にし、本人がやりたいと思うことにチャレンジしてもらえるように研究テーマを設定しています。そのことがこれからの未来につながるきっかけとなり、ワイヤレス通信が支えるより良い未来をつくっていくと信じています。

電気電子生命学科 電気電子工学専攻 通信技術研究室 井家上哲史 教授
卒業生の写真

私の研究室は1997年4月に始まりました。今では200名を超える卒業生がいます。多方面で活躍する卒業生たちと定期的に食事会を開いています。彼ら彼女らの話を聞けることは、私にとってとても大切な時間です。

スタッフについて

電気電子生命学科 電気電子工学専攻 通信技術研究室井家上哲史教授

1985年明治大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。郵政省電波研究所(現NICT)勤務を経て、1997年より明治大学理工学部に助教授として着任。2004年より現職。通信技術研究室にて、「ワイヤレス・ユビキタス・ネットワーク」の実現を目指し、新しい通信方式の研究を行っている。

研究内容

  • ボディエリアネットワーク・センサネットワークのための超広帯域無線通信・測位方式に関する研究

    近年、人やモノの位置を高精度で検出しながら、通信する需要が増えている。これらはボディエリアネットワークとかセンサネットワークと呼ばれている。非常に広い帯域幅を持ち距離分解能に優れている超広帯域無線(UWB:Ultra Wide Band)を応用し、人やモノの状態を検出しつつ通信を目指し研究を進めている。

  • 次世代無線ネットワークのための周波数利用法に関する研究

    地上ディジタル放送や携帯電話等のディジタル無線技術が発展していく中で、周波数帯域の確保が問題となっている。 一方で、周波数を割り当てられたシステムの中で周波数帯域を効率よく利用しているとはいえないものも存在する。 そこで、本研究室ではコグニティブ無線と呼ばれる無線技術や複数のアンテナを用いるMIMOなどの時空間信号処理を用いることにより、通信を効率よく行う方式に関して研究を行っている。

  • 災害対応支援のための無線通信システムに関する研究

    地震大国日本では、電力や通信インフラの強靱化が進んでいるが、インフラが途絶えたときでも災害時活動に十分な速度でデータ通信(文字/画像)を組織間で利用可能な自営無線網が必要である。これに用いるVHF帯を用いる準狭帯域無線システム DR-IoTを複数機関共同で提案し、研究を進めている。また静止衛星や低軌道周回衛星を利用した災害対応に応用可能なネットワークの研究を進めている。

主要な業績

  • 2021.12論文 / 共著

    Experimental study on indoor UWB localization reducing decision errors of NLOS sensors with different sensor environments Pro. ICETC2021 68,pp.D2-3

  • 2016.10論文 / 共著

    GSC-based equalizer with QR decomposition for CP-free MIMO-OFDM systems IEICE Communications Express 10(12),pp.899-904

  • 2016.10論文 / 共著

    送信側と受信側でチャネル予測を行うことにより時変動チャネルにおけるMIMO固有モード伝送の通信性能劣化を改善する手法 電子情報通信学会論文誌 B J99-B(10),938-965頁

  • 2016.03論文 / 共著

    M2M/Iotシステム入門

  • 2008.04論文 / 共著

    センサネットワークの技術動向と最新事例