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池田(向井)有理 准教授
タンパク質の
美しい
秩序を
解明したい。
電気電子生命学科 生命理工学専攻 生命情報科学研究室 池田(向井)有理 准教授
まるでひとりの人間が一生の間にさまざまな場所で多くの人と出会い、影響を受けながら成長していく過程のように、タンパク質が細胞内のどのような場所でどのような修飾を受け成熟していくのか。そのような視点でタンパク質を研究する電気電子生命学科・生命理工学専攻・生命情報科学研究室の池田有理先生。ここでは、自身の研究領域に至った経緯と、その魅力についてお話しいただきました。
好きなことが、自らの道をつくる。
生き物と音楽と鉄道。物心ついた時から、私はこれらに夢中でした。テレビで聴いた電子音楽に衝撃を受けて習い始めたエレクトーンは、指導資格を取るまで続けました。「鉄オタ」なんて言葉もない時代から、特急や寝台列車を追いかけてターミナル駅を渡り歩き撮影していました。鉄道のシールや模型もたくさん集めました。わけても、生き物にはいつも心を奪われていました。両親が言うには、公園で蟻の巣を見つけたら、朝から晩まで眺めているような「少年」だったと。小学校の遠足で遺跡に訪れるも、道端に見つけた小動物の骨にすっかり興味が移り、みんなとはぐれてしまうようなことも。幼い頃から好きなことをとことん突き詰める性格だったのかもしれません。
生態学者だった父の影響もあり、顕微鏡を覗かせてもらったり、標本を見せてもらったりして、私も将来はこういう研究をしたいと思ったことを、今でも覚えています。大学と大学院で生物学と物理学・化学の複合分野において学びを深める中で、私のライフワークとなるタンパク質と出会いました。
タンパク質の美しさに惹かれて。
学生時代の研究室ではタンパク質の構造形成機構を研究しました。それ以来、私の主たる研究対象は生体内の分子機械ともいわれる「タンパク質」がベースとなっています。タンパク質は幾何学的で本当に美しく、鳥肌が立つほど感動したことを覚えています。アミノ酸の連なりでできているタンパク質の多くは、それだけで働くものではなく、細胞内の最終目的地に向かって決められた経路をたどり、その過程でさまざまな酵素から分子修飾を受け成熟することにより、はじめてその機能を発揮します。例えるなら、私たちが過ごしてきたそのときどきの環境の中で出会うべき人に出会い、有形無形のギフトを受け取りながら大人になっていくような感じでしょうか。その分子同士の相互作用がとてもロマンティックで、タンパク質を中心とした分子生物学の世界にどんどん惹かれていきました。
現在、私の研究室ではバイオインフォマティクスや遺伝子工学・分子生物学実験などの手法を用いて、タンパク質の構造や機能の機構解明および医療創薬分野での活用を目指しています。最近では、クラゲを対象とした生態学研究や機能性タンパク質の発見にも取り組み、日々研究に励んでいます。
学生との相互作用が、私の研究を深化させる。
私はコンピュータを使ったバイオインフォマティクス解析と実験的な実証の両輪で研究を進めています。バイオインフォマティクス解析では、タンパク質のアミノ酸配列や立体構造の情報を用いた計算を行っています。それと同時に、クラゲなどの生体試料や培養細胞を使った分子生物学実験を行っています。コンピュータの世界も無限の広がりを感じて興味深いのですが、実際に生き物や生きた細胞を観察する楽しさは格別です。私は初めて共焦点レーザー顕微鏡をのぞいた日、あまりの美しさにのめり込み過ぎて、日付が変わっても外が雪になっていても全く気づかず、観察を続けてしまったほどです。
教育者のひとりとしての私は、出会ったタンパク質に分子を修飾する酵素のように、学生たちを待ち構えて修飾をする立場にあるかもしれません。ところが実際には、私の方が学生たちから日々多くの影響を受け、成長を助けてもらっているような気もしています。若返りをするといわれているベニクラゲの研究を始めたのも、研究室の学生のアイデアがきっかけでした。学生たちの多様な悩みを共有してもらう中で思うところがあり、臨床心理学分野の社会人大学生・大学院生も経験しましたが、それがまた私自身の新たな個性になりました。さまざまな学生と向き合い続ける過程で、学生たちとの相互作用にこそ大学での研究の醍醐味があるのだ、ということに気づきました。自由闊達に意見を交換して影響を与え合い、人と人とのつながりをエネルギーにしていきたい。「大学の研究室は重要な修飾のステージだった」といつか卒業生に振り返ってもらえたら嬉しいなと。そんな思いを大切にしながら、これからも学生たちとともに未知の世界への旅を続けていきたいです。
私が幼稚園の年長のときに作った、おたまじゃくしの観察日記です。足が生えそろうと尻尾が消えていくのはなぜだろう。観察する中でとても気になったことを覚えています。この頃から生物の変態に惹かれ、いまにつながっているのかもしれません。
スタッフについて
電気電子生命学科 生命理工学専攻 生命情報科学研究室池田(向井)有理准教授2000年北海道大学大学院薬学研究科修了。博士(薬学)。2007年明治大学理工学部に専任講師として着任。2013年より現職。生命情報科学研究室にて、タンパク質の構造や機能の機構解明および活用を目指し研究を行っている。
研究内容
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膜タンパク質の細胞内局在機構の解明
細胞内局在予測が特に難しい膜貫通タンパク質に特化し、膜貫通領域のアミノ酸配列を用いたバイオインフォマティクス解析から、細胞内局在化のルール抽出や予測法の開発を行っている。また、局在化ルールや予測法の精度を実験的に検証するために、膜貫通領域のアミノ酸配列を蛍光タンパク質に導入してヒト培養細胞に発現させ、蛍光顕微鏡で細胞内局在性の確認を行っている。
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機能性ペプチドの分子機構の解明
バイオインフォマティクスの手法により、現在ゲノム配列が明らかにされている全生物種のタンパク質の中から、血圧降下・脂質代謝・炎症修復などの生理活性を引き起こすペプチドを見出している。また、これらのペプチドのヒト培養細胞内での発現や、ヒト培養細胞への直接作用を行う分子生物学実験により、生理活性の分子メカニズムの解明を目指している。
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ベニクラゲの生態学的・生理学的研究
若返りをする生物とされているニホンベニクラゲから、機能性タンパク質を発見する研究を行っている。ニホンベニクラゲの成熟個体やポリプ幼体をさまざまな条件で飼育し、若返り誘導に必要な要因を探し出すことに成功した。また、クラゲ類の体液中に含まれるタンパク質の中からプログラム細胞死や細胞分化を誘導する因子を探し、ヒトの細胞に応用する研究を行っている。
主要な業績
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2018.10 論文 / 共著Signal-anchor sequences are an essential factor for the Golgi-plasma membrane localization of type II membrane proteins
Biosci. Biotech. Biochem., 82, 10, 1708-1714. -
2018.01 論文 / 共著ニホンベニクラゲ(ヒドロ虫綱,花クラゲ目)『若返り』現象の誘導
日本生物地理学会会報, 72, 266-270. -
2016.10 論文 / 単著Secondary structure of GPI attachment signal region monitored by circular dichroism
Chem. Lett., 45, 10, 1153-1155. -
2016.06 論文 / 共著Study of molecular recognition mechanism in protein GPI modification: a bioinformatics analysis of interaction between GPI-anchored proteins and modification enzyme
J. Biomech. Sci. Eng., 11, 15-00361, 1-7. -
2013.03 論文 / 共著Discrimination of mammalian GPI-anchored proteins by their hydropathy and amino acid propensities,
Biosci. Biotech. Biochem., 77, 3, 526-533.