教員と研究

建築のあり方を、
その周辺領域とともに
考える。

建築学科 建築計画・設計研究室
田中友章 教授
建築学科 建築計画・設計研究室 田中友章 教授

建築計画・設計の理論や技法の研究、そして具体的な建築デザインという実践の両輪で活動を行っている建築計画・設計研究室。建物だけでなく、身体や家具から街や都市までを対象として研究に取り組む田中先生に、この領域に出会った背景からその魅力についてお話いただきました。

建築は、あらゆる環境と作用し合う。

高校時代は漫画やアニメなどが盛り上がってきた頃で、そういったサブカル的なものにも興味を持っていました。映画好きの友人の影響で、その当時、年間300タイトルを超える映画を観たかと。大学の志望を決める時期になり、親しくしていた美術の先生に相談すると、建築がいいだろうとアドバイスを受けたこと。当時観に行ったジョージ・シーガルの展覧会で、石膏でつくった日常のワンシーンを切り取ったような作品にも影響され、「街」や「都市」にも興味が湧いていたこともあり、建築の道へ進むことになりました。

入学した大学の建築学科は当時1学年180人の大所帯。私が学んできた専門分野は計画や設計ですが、構造が専門の学生もいれば、歴史もいるし、環境、設備、都市もいる。それぞれ多様な専門分野に軸足を置く仲間と一緒に学べるのは、建築という学問の非常に良いところだと感じました。留学経験のある日本人建築家を特集した雑誌記事を読んで感化され、外国の大学で学んでみたいと思うようになりました。そして、修士を終えた後にアメリカ東海岸の大学へ留学しました。そこで、スティーヴン・ホールの最初の作品集「ANCHORING」に出会い、建築を単体として捉えるのでなく、建築はその建築があるあらゆる環境から制約を受け、作用し合う「場所性」という考え方に強く影響を受けました。卒業後、奇しくもスティーヴン・ホールの建築事務所で働く機会にも恵まれました。その後、帰国して独立し、良い建築をつくるための実践と研究に取り組み、今に至っています。

身体から街まで。建築デザインの射程は広い。

私の研究室では、建築計画と建築設計を互いに関わり合うものと捉え、研究と実践の両面からの活動を行なっています。建築計画とは、良い建築を生み出すために、時代背景や社会背景、案件ごとの立地や用途など条件を把握・分析し、解決すべき問題を整理する技術です。建築設計とは、その解決すべき問題への回答を、具体的な形態や空間としてデザインすることです。建築デザインは、単体の建築物に留まらず、建築物を取り巻く屋外空間、樹木、地形などを含めた建造環境を対象にします。身体から街へ、家具スケールから街区スケールへと広がる多様なスケールを射程に入れて、建築計画と建築設計のあり方を探求していきます。

また、3次元計測技術を活用した敷地計画の研究も行っています。ハンディタイプの3次元スキャナーを使い、地形、樹木、建築物などからなる敷地の環境を正確に計測します。さらに、デジタルカメラで敷地をぐるりと多数の写真を撮影し、画像処理して3次元データを作る技術も駆使します。そして、計測データに基づき、敷地計画など建築デザインを作り上げます。図面化が難しい複雑な自然環境の分析や設計シミュレーション、図面のない歴史的建造物の保存・再生計画などにも役立つ研究です。

建築の答えは一つではない。

研究とは好奇心を満たす行為だと思います。「これは一体どうなっているんだろう?」といった純粋な好奇心が原動力となります。建築における研究の特長は、そんな好奇心に対して実感のある答えを導き出せることです。建物や家具、ランドスケープなどCGや模型などで視覚的・空間的に具体化された形を提示することで、イメージを具体化し、共有することができます。ただし、そこには社会があり、多くの人が関わり、多くの問いがあります。すなわち、答えは一つではありません。そこが、一つの正解を追求する数学などの純粋な自然科学とは決定的に違うところです。建築はとても社会的な存在。それゆえに、いかに答えに辿り着くまでの考え方の道筋を示すか、辿り着いた答えが、人々の共感を生み、実現可能性を具備していけるかがポイントとなります。

これからの時代は、ますます不確実な時代になっていくでしょう。だからこそ、これからの建築がどうあるかを考え続けていきたいと思っています。建築と関わることは、未来の社会と関わることにつながり、これからの時代を生きる知恵にもつながっていくと私は信じています。

建築学科 建築計画・設計研究室 田中友章 教授
ヘルシンキ現代美術館「キアズマ」

私が、スティーヴン・ホールの建築事務所で働いていたときに携わったヘルシンキ現代美術館「キアズマ」の竣工時に頂いたアルミ鋳造模型。その頃はまだまだ事務所も小さく、彼から直接学びを得ることができたのは貴重な体験だったと思います。

スタッフについて

建築学科 建築計画・設計研究室田中友章教授

1989年早稲田大学大学院理工学研究科修了、1991年イェール大学建築学部大学院修了。博士(建築学)。スティーヴン・ホール・アーキテクツ勤務を経て、2008年明治大学理工学部に准教授として着任。2013年より現職。建築計画・設計研究室にて、建築計画と建築設計を連関したものと捉え、研究と実践を行っている。

研究内容

  • 3次元計測技術を活用した敷地計画

    3次元計測技術を活用し、地形、樹木や建築物などからなる建造環境を正確に計測し、その成果物を活用して敷地計画など建築デザインに応用する研究をしている。図面化が難しい複雑な自然環境や高低差のある敷地、図面のない歴史的建造物、密集市街地などを視野に入れた取り組みを行なっている。

  • 混住型学生宿舎(混住寮)の調査・研究

    現在、日本人の学生と留学生が生活を共にしながら学ぶ場としての混住型学生宿舎(混住寮)がグローバル人材を育成する場として注目を集めている。スーパーグローバル大学創成支援の採択大学における先導的な混住寮事例などを中心に調査・研究を行なっている。

  • インフォーマル居住地の建造環境改善に関する研究

    気候変動による豪雨の影響は世界各地に及び、そのなかでも河川近傍や低地などに立地するインフォーマル居住地への取り組みが求められている。本研究では、2019年より協定校の王立芸術大学(カンボジア)、ホーチミン市建築大学(ベトナム)と共同で、プノンペン市郊外のインフォーマル居住地を対象として、研究を行なっている。対象地域の住環境改善を行うため、まず、図面のないインフォーマル居住地を3次元計測技術を用いて建造環境をデータ化し、住環境の特徴や課題を抽出した上で、改善方策の研究を進めている。

主要な業績

  • 2018.06論文 / 共著

    米国の建築家資格制度における統合的道程の導入―資格制度3要件の分節・統合に向けたカリキュラムの新設に関する考察―
    日本建築学会 技術報告集 第24巻 第57号 pp.877-882

  • 2018.03論文 / 共著

    多文化の学びを育む混住型国際学生宿舎の研究
    住総研 研究論文集•実践研究報告集No.44,2017年版 pp.191-202

  • 2017.09論文 / 単著

    A Study on Design Review Systems Utilizing the Landscape Act in Tokyo -Notes on Examples in the Urban Regeneration Special Districts-
    UIA2017 SEOUL The XXVI World Congress of Architecture Academic Program

  • 2017.10論文 / 共著

    米国の実務研修制度の運用実態 ―実務に即した研修制度の構築に関する考察―
    日本建築学会 技術報告集 第23巻 第55号 pp.1069-1074

  • 2017.10論文 / 共著

    米国の建築家資格制度の近年の改定動向 ―資格制度3要件の接合に関する考察―
    日本建築学会 技術報告集 第23巻 第55号 pp.1063-1068