教員と研究

「考える数学」は、
人生を豊かにする。

数学科 数学第10研究室
藏野和彦 教授
数学科 数学第10研究室 藏野和彦 教授

世界的に偉大な数学者・永田雅宜先生の弟子として、師の「数学は覚えるのではなく考える」を学生に伝え、自らも難問を解き明かすために研究に余念がない藏野先生。この研究領域と出会った背景からその魅力についてお話しいただきました。

“当たり前”を疑い、証明する。

私が入った大学の理学部では、入学後に専攻を決めることができました。元々、生物か物理か数学のどれかにしたいと考えていましたが、1年生で入った数学の自主ゼミがとても面白かったので、数学を選びました。高校時代、懇意にしていた物理の先生に大学で数学を専攻したことをお伝えしたとき、その先生から「藏野はたぶん数学科へ行くだろうと思っていた」と言われたことは今でも覚えています。自分の頭の中で理論をつくり上げる数学的な指向が私にあることを、きっと先生は感じていたのかと思います。

大学の数学は高校までとは全く違っていることに驚き、そして惹かれました。高校までは、言わば結果だけを教わる数学。例えば、n次方程式には複素数解があると教わり、私もそれを手放しに信じていました。しかし、大学の数学は、そもそも複素数解の存在を疑い、まず存在を証明しないと前には進めない、というスタンスです。実際に理論を積み上げることで、複素数解の存在を証明することができます。“当たり前”と教えられてきたことを一から証明する。味わったことのない達成感が、そこにはありました。

すべては一瞬のひらめきのために。

数学の研究というのは、正直とても辛いものです。実験をすれば何らかの結果が出て、その結果をもとに論文が書けるという分野ではありません。どれだけ頑張っても結果が出ないこともあります。そして、答えの糸口を見つけるまでは苦しみの連続です。ようやくたどり着いた答えが間違っていることもあります。しかし、苦労の末に問題が解けた、証明ができたという瞬間は、本当に嬉しいものです。

ずっと悩んでいた問題も、ある時突然のひらめきで解けたりします。そのひらめきのエネルギーとなるのが普段の地道な勉強です。数学の本を読むのには、とても時間がかかります。たった1行を読むために丸1日かかることもあります。1日かけてもわからない場合もあります。ただ、わからなかったからといって、その時間は無駄ではありません。理解しようと試行錯誤した経験が、いずれ自分で何かを見つけ出す時に役に立ちます。それが数学の研究の素晴らしいところです。

「自分の数学を」の教えを胸に。

最も影響を受けた人物は、大学のゼミの先生で、世界的な数学者だった永田雅宣先生です。永田先生はいつも「自分の数学をしなさい」と、私たち学生が自分のやりたい数学にのびのび取り組むための環境づくりに尽くしてくださいました。私は明治大学に来てから、代数学において日本で最も栄誉ある代数学賞を受賞することができました。この賞は奇しくも、次代を担う数学者の研究を後押ししたいと永田先生が創設した賞でした。「自分の数学をしなさい」という教えを守り、諦めずに続けた研究の成果を、先生に認めていただけたような気がしています。

私も永田先生の教育方針にならい、自分でどんどん解き方を考える学生には、その研究を深められるようにサポートしています。私自身もいつか永田先生が予想した未解決問題を解くことを夢見ながら日々研究と向き合っています。私は数学があることで人生が豊かなものになりました。そして、解けるか、解けないかわからない問題に挑戦することは、何よりも幸せなことだと思います。

数学科 数学第10研究室 藏野和彦 教授
ルービックキューブ

ある年の学生達がルービックキューブに興味があり、調べてみると代数として非常に良いテーマでした。その学生達とともにある参考書をベースに勉強し、ルービックキューブの代数構造について卒業論文にまとめました。数学的観点から参考書の行間を埋めていくことは、自らの理解を深める大切な行為です。

スタッフについて

数学科 数学第10研究室藏野和彦教授

1988年京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。2003年より明治大学理工学部専任教授(現職)。数学第10研究室にて、代数学の一部の可換環論という分野で研究を行っている。

研究内容

  • 代数幾何学を用いた可換環の研究

    現在代数学の一部の可換環論という分野で研究を行っている。可換環論では、空間の性質を代数的に理解することを一つの目的とし、複雑で次元が高い二つの図形が一点で交わっている場合にその交点数を代数的に記述し計算することが私の研究テーマの一つである。「絵によって代数を理解し、代数を使って絵を描く」これが、可換環論の魅力である。

  • Cox環やsymbolic Rees環の有限生成性

    Cox環やsymbolic Rees環の研究は、代数多様体の双有理変換の地図を作ることに他ならない。ある曲面のCox環を研究することによって、60年間解けていない“永田予想”に少しでも近づきたい。

主要な業績

  • 2021.09論文 / 共著

    Ideal-adic completion of quasi-excellent rings (after Gabber), Kyoto J. Math. 61 (2021) pp 707-722.

  • 2019.06論文 / 共著

    Infinitely generated symbolic Rees rings of space monomial curves having negative curves, Michigan Math. J. 68 (2019), 405-445.

  • 2016.04論文 / 共著

    Boundary and shape of Cohen-Macaulay cone, Math. Ann. 364 (2016), 713-736.

  • 2004.09論文 / 単著

    Numerical equivalence defined on Chow groups of Noetherian local rings, Invent. Math. 157 (2004), 575-619.

  • 2004.06論文 / 共著

    The total coordinate ring of a normal projective variety, J. Algebra 276 (2004), 625-637.