教員と研究

新しい計測技術で、
未来の医療の
役に立ちたい。

機械情報工学科 計測工学研究室
石原康利 教授
機械情報工学科 計測工学研究室 石原康利 教授

がん細胞の位置を正確に画像化する技術や、採血せずに血糖値を計測する方法について研究する計測工学研究室の石原先生。ここでは、自身の研究領域に至った経緯と、その魅力についてお話しいただきました。

個々の力が統合されて、大きな成果に。

親戚にメーカーに勤める技術者が多かった影響でしょうか。小さな頃から技術者になりたいと思っていました。まだテレビゲームが出始めの頃、自身でテレビゲームを作ってしまう叔父がいて、自分もそんなふうになれたらいいなと。技術とは誰かのためにあるもの。人の役に立つ技術者になろうと決意し、高専、大学へと進みました。大学の研究室で画像工学の研究に取り組んでいた時に、大手電機メーカーの総合研究所へインターンとして入り、医用画像診断装置のソフトウェア開発からシステム構築までを行うチームに参加しました。自分にも明確な役割が与えられ、チーム全員で同じ方向を向き、個々の力が統合されて一つのものを作り上げていく。そんなところに研究の醍醐味を感じました。

修士課程を終え、お世話になったメーカーに就職。MRIやCTといった画像診断装置の研究に取り組んだ後、事業部の研究所や技術部などで要素技術の研究開発を担当しました。より市場に近い立場の技術者と、より研究に近い立場の技術者。同じ技術者であっても何年先の未来を見ているかが違いました。特に、研究を推進して大きな成果を生み出すために必要なことは、皆が同じ未来を見ていくこと。そのことを大切に15年間在籍し、縁があって大学教員の道に進むことになりました。

がん細胞を画像で正確に捉え、やっつける。

計測工学研究室では、一言で言えば“医療をより良くするための技術”について研究しています。現在取り組んでいるテーマの一つが、磁性ナノ粒子イメージング。磁性を持つナノサイズの粒子ががん細胞に滞留する現象と、粒子が外部磁場に反応する信号を利用して、がん細胞の位置を早く、精度良く画像化する技術です。粒子が持つ磁性体を加温することで、がん細胞だけを熱で死滅させる温熱療法の研究も進めています。また、乳がんなどの早期検出を目指し、より手軽に画像診断できるハンディタイプのMRIシステムの基礎研究にも力を入れています。もう一つの大きなテーマが、採血が不要な血糖値計測です。生体に光を照射し、光の吸収によって発生する音を計測する光音響分光法を利用します。発生した音波を計測することで血糖値を推定するため、計測のたびに皮膚に針を刺す必要がなくなります。

これらの研究成果を発信するために、海外の学会に学生と一緒に参加しています。研究をしていて一番ワクワクした瞬間は、国際学会で学生が発表を行い、それがとても評価されて賞に輝いた時。自分が受賞するよりも、嬉しかったですね。

患者さんにかかる負担を、軽くするために。

このような採血不要な血糖値計測の研究を行っているのは、現在、日本では成人の6人のうち1人が糖尿病予備軍といわれているためです。糖尿病は世界的に深刻な現代病となっています。糖尿病を治療中の患者さんは1日に何度も血糖値を測らなくてはいけません。毎回針を刺して採血する痛みは大変なストレスです。感染症のリスクもあります。計測のために、年間20〜30万円もの費用も発生します。採血が不要な血糖値計測の技術は、世界中の大勢の方々にのしかかっている心身と経済的負担をなくすことにつながります。現在、試験管レベルでの計測はうまくいっていますが、生体での計測ではいろいろな課題が残っています。高い壁が立ちはだかっていますが、ひとつひとつ課題をクリアにし、研究を続けていきたいと思っています。

研究は困難の連続。高い志と使命感がなければ、くじけてしまいます。もしかすると、自分が生きているうちに目標にたどりつけないかもしれません。しかし、得られた成果を次代につなげていくことができれば、いつか成し遂げられる日がやってくると信じています。目の前のゴールは常に通過点であり、そこを乗り越えることで次のゴールが見えてきます。学生とともに未だ見ぬゴールを探り、新たな課題と向き合っていきたいと思っています。

機械情報工学科 計測工学研究室 石原康利 教授
MRIの発展につながった研究

メーカーの勤務時代にMRIでがんの治療をする際に必要な温度モニタリング技術を開発しました。その後20年の時を経て、国際磁気共鳴医学会より2014年にMRIの発展に大きく寄与した論文として賞をいただきました。一緒に研究を行った方々とともに到達した成果でもあり、感謝の気持ちでいっぱいです。

スタッフについて

機械情報工学科 計測工学研究室石原康利教授

1989年長岡技術科学大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。2012年より現職。計測工学研究室にて、計測システム、医用画像診断システム、低侵襲治療システム、画像処理システムに関する研究を行っている。

研究内容

  • 磁性ナノ粒子を用いた画像診断システムの研究

    磁性ナノ粒子が「がん細胞」に集積する性質を利用して、体外から磁性体の位置を検出する画像化技術や、磁性体を加温することで「がん細胞」を選択的に治療する技術の研究を行っている。

  • 採血不要な血糖値計測システムの研究

    採血することなく血糖値を計測するためのシステム開発や、新たな信号検出手法の提案、ニューラルネットワーク等を用いた血糖値推定アルゴリズムの研究を行っている。

  • 画像処理技術の研究

    経鼻内視鏡画像や、眼底画像等を鮮明にする超解像処理を初め、種々の画像処理技術の研究を行っている。

主要な業績

  • 2020.04論文 / 共著

    “Magnetic particle imaging using discrete sampling and image reconstruction with few orthogonal bases obtained by singular value decomposition of selected delta responses, International Journal on Magnetic Particle Imaging,” International Journal on Magnetic Particle Imaging, 6(2),pp.2003003.1-2003003.8

  • 2020.03論文 / 共著

    “Preliminary experiments for detection of reflected signals from magnetic nanoparticles by ultrasound,” International Workshop on Magnetic Particle Imaging

  • 2019.03論文 / 共著

    “Development of a simulation model for magnetic nanoparticle imaging using ultrasonic vibration,” International Workshop on Magnetic Particle Imaging

  • 2019.03論文 / 共著

    “Displacement measurement for new MPI system based on vibrating magnetic nano particles,” International Workshop on Magnetic Particle Imaging

  • 2019.03論文 / 共著

    “Image reconstruction method of magnetic particle imaging using orthogonality of singular value decomposition,” International Workshop on Magnetic Particle Imaging