教員と研究

地球の内部を知ると、
人類のこれからが
見えてくる。

物理学科 地球内部物理研究室
新名良介 准教授
物理学科 地球内部物理研究室 新名良介 准教授

46億年前に誕生したこの地球の内部は一体どうなっているのか?地球内部を再現する高圧力実験で地球の構造と進化の謎に迫る地球内部物理研究室の新名先生。ここでは、自身の研究領域に至った経緯と、その魅力についてお話しいただきました。

世の中の不思議を解明したい。

幼い時からUFOなどをはじめとし不思議なものが大好きでした。小学生になってからはブルーバックスやニュートンなど科学系の本を読み漁っていました。私にとってはUFOなどの話も、相対性理論や量子論の話も“不思議”という点では一緒。この世界はどんなふうにできているんだろう?そんな疑問を常に持ち続け、この世界とは何なのか、そしてこの世界どのようにできているのかということに興味を持ち、大学は理学部に進学しました。ただ大学生活では当初、自分の興味をグッと惹きつける講義と出会えず、自分は何をしたいのか悩む時期がありました。物理、化学、地球、生物をはじめとし、建築史や文学、美術に至るまでありとあらゆる講義を受ける中、その後の恩師となる廣瀬敬先生の講義に出会いました。廣瀬先生は高圧力実験のプロフェッショナルとして地球内部を研究されていて、話される内容は実に明快。なんで、どうしてと不思議に思うことにわかりやすく、筋が通ったストーリーで結論まで導いてくれる。とてもワクワクする講義だったんです。そのことがきっかけとなり、廣瀬先生のところでお世話になりたいと強く思い、学部時代を過ごし、先生の研究室で地球内部についての学びを深めていくことになりました。

なぜ地球にだけ生命が?

私の研究室では、実験から地球内部の進化を解き明かす研究を行っています。地球は誕生してから46億年間、ダイナミックに変動しながら現在の形へと姿を変えてきました。地球内部の変動は、表層環境も一変させます。例えば、地球全体が氷に覆われるスノーボールアースという出来事もその一つ。いくつかの生物大量絶滅は地球内部の変動が原因と考えられています。地球内部は深さ約6,400km。では、人類が掘った最も深い穴はどれくらいかというと、わずか10kmほどです。地球内部はかつてどのような構造で、どのような過程を経て、現在の生命が繁栄する地球へと進化していったのか? なぜ他の惑星とは違い、地球にだけ生命が繁栄し続けたのか? 不思議なことばかりです。

そのような謎を解き明かすための有力な方法が観測や調査と、地球内部を再現する高圧力実験を組み合わせる手法です。地球内部における物質の物理的・化学的性質を明らかにします。地球内部の解明は、地球上の生命誕生の起源や存続の議論にもつながります。人類の進むべき方向も見えてくると思いながら研究を進めています。

人類の知識の幅を拡げたい。

博士号取得後、ドイツの研究所で研究員を経験し、廣瀬先生の研究室で特任助教・特任准教授として研究を続け、明治大学に着任しました。研究室を立ち上げるにあたり、実験装置や実験環境をゼロから構築していくことは想像以上に大変で、多くの人にサポートしてもらいながら研究ができていたことを改めて実感しました。だからこそ、この研究室では、学生がやりがいをもって研究できる環境を支援し、学生の好奇心を満たす場にしたいと思っています。

学生の研究テーマにおいても、かつて誰かが研究していたことではなく、まだ世界でわかっていないことをテーマにすることを心がけています。そうすることで、世界から評価される可能性があります。海外の学術雑誌に論文が掲載され、アメリカの地球物理学会で口頭発表した学生もいます。私自身も論文を書き続けています。研究者として100本を超える論文を書き、影響力のある学術誌に1本でも多く論文が掲載されることを目標としています。100本という量を追求しているのでなく、人類の知識の幅を少しでも拡げることに貢献したい。そんな思いが私の原動力になり、そんな研究を学生とともにしていきたいと思っています。

物理学科 地球内部物理研究室 新名良介 准教授
講義ノート

私の恩師である廣瀬先生の講義を受けたときのノートです。先生の講義は分かりやすく、そして間違いがない。分かりやすさを追求するとどこかで正確性を犠牲にしてしまうのが科学の世界ではよくあります。ただ先生の講義はそれを両立していて、私もいつか廣瀬先生のような講義をしたいと思い、折をみて読み返しています。

スタッフについて

物理学科 地球内部物理研究室新名良介准教授

2010年東京工業大学大学院理学研究科修了。博士(理学)。2019年より現職。地球内部物理研究室にて、地球内部の構造とその進化をより詳細に理解するため、地球核、マントル物質、流体の物理・化学的性質を地球内部に相当する高温高圧下において実験的に研究を行なっている。

研究内容

  • 地球内部構造の解明

    地球がどのような内部構造・化学組成をもっているのかを理解することを目指し、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた高温高圧その場電気伝導度測定システムの構築や、放射光施設における放射光X線を用いた測定に取り組んでいる。

  • 地球内部物質の進化の解明

    地球内部物質の安定相関係や元素分配係数、遷移元素の価数状態を決定し、地質学・地球化学的分析の結果と比較することで、地球内部の進化プロセスを制約することを目的としている。ダイヤモンドアンビルセルや大型プレスで高温高圧を発生させ、得られた試料に対し、X線回折測定や、様々な分光測定、透過型電子顕微鏡を用いた分析を行っている。

  • 高温高圧実験手法の開発

    地球内部は最大で360万気圧6000 ℃に達するような非常に高い温度圧力の世界を再現する実験には常に技術的困難が付きまとう。ダイヤモンドアンビルセルにおける代表的な高温発生手法であるレーザー加熱法の改良や、比較的新しい抵抗加熱法の高度化に挑戦している。

主要な業績

  • 2023.06論文 / 共著

    Recent progress in the high-pressure experiments on the composition of the core. In Core-Mantle Coevolution: A Multidisciplinary approach AGU books. American Geophysical Union, Washington, D.C.

  • 2022.05論文 / 共著

    The electrical conductivity of Fe4O5, Fe5O6, and Fe7O9 up to 60 GPa. Phys. Chem. Miner. 49, 11,

  • 2019.03論文 / 共著

    Melting curve of iron to 290 GPa determined in a resistance-heated diamond-anvil cell. Earth Planet. Sci. Lett. 510, 45-52.

  • 2016.12論文 / 共著

    Electrical conductivity of NaCl-bearing aqueous fluids to 600˚C and 1 GPa. Contributions to Mineralogy and Petrology. 172:4. doi:10.1007/s00410-016-1323-z

  • 2016.09論文 / 共著

    Discovery of Fe7O9: a new iron oxide with a complex monoclinic structure. Scientific Reports. 6, 32852; doi: 10.1038/srep32852