教員と研究

確かな安心と
安全のために、
機械の声に耳を
傾ける。

機械工学科 材料力学研究室
松尾卓摩 教授
機械工学科 材料力学研究室 松尾卓摩 教授

機械や構造物の「痛い」を聞く診断技術によって壊れる前に予防をしたり、壊れにくい機械や構造物をつくり、社会に確かな安心と安全を届ける研究をしている機械工学科 材料力学研究室の松尾先生。ここでは、自身の研究の魅力や研究の先にあるものについてお話しいただきました。

ものは、なぜ壊れるのか。

あるときスキーで転倒し、ストックが折れてしまいました。前に使っていたストックはいくら転倒しても折れなかったのに、その折れたストックはグレードが高かったにも関わらずなぜかいとも簡単に折れてしまいました。ものは、なぜ壊れるのか。そうした疑問をきっかけに、非破壊検査や材料の強化という研究領域へ興味をもちました。

大学在学中の私の研究テーマは、防爆性のあるセンサーづくり。非破壊検査で使われる一般的なセンサーは、電気を使って振動で電気信号を送りますが、石油タンクなどの法律によって制約がある環境では使えないこともあります。そこで光ファイバーを使ったセンサーの研究をはじめました。その研究内容は国内外から高い評価を受け、自らの自信につながっていきました。私の取り組んだ研究が世界ではじめてのことと認識したときはなによりも嬉しく、研究という取り組みに心が踊った瞬間でもありました。

南極で、気球を飛ばす。

研究は、常に新しいチャレンジができることがなによりも魅力です。特に大学における研究の特徴は、企業の研究部門と異なり、失敗や損害といったリスクへの許容度合いが大きいことです。また、偶然のきっかけや出会いから新たな研究につながることもあります。

いま、私はJAXAと国立極地研究所とともに南極でスーパープレッシャー気球の共同研究を進めています。この研究は、成層圏という人工衛星に比べると低い高度で一定地域の環境変化などを観測できる新たなプラットフォームとして期待されています。私の役割は、スーパープレッシャー気球が長期に渡って飛行できるための気球被膜材料の耐性の調査と強化です。この共同研究は私自身の研究を深めるのみならず、成層圏や南極などの未知なる分野に出会い、新たな体験ができる大切な機会となっています。研究によってひとつのことを突き詰めていくと、それを必要とする人が必ずいます。その出会いによって自らの知識が拡張されていくことは、研究者の醍醐味のひとつです。

あたり前を、これからも。

研究の先にあることは、その研究が世の中の役に立つことだと考えています。私たちが日々利用している鉄道や飛行機といった大型機器、橋やプラントといった構造物、電気をつくる発電所、水を運ぶ水道管といった社会インフラは、日々老朽化が進行しています。そしてこれからは、水素をはじめとした次世代エネルギーが普及し、それに伴う新しい機械やプラントが求められる時代になってきます。

いま日本では、人々の生活を支える社会インフラは壊れなくてあたり前と思われています。しかしながら、そういった社会インフラも人と同様に病気になるときがあります。私は研究を通じて機械や構造物の「痛い」という声を聞き、その機械や構造物と人が会話できる世界を実現したいと考えています。そして、いつの時代も求められる社会の安心と安全というあたり前を支え続けることに貢献したいと思っています。

機械工学科 材料力学研究室 松尾卓摩 教授
鈴鹿サーキットと私。

私が小さい頃、父の仕事の関係で鈴鹿サーキットに連れていってもらったときの写真です。そのことがきっかけで、F1をはじめとしたモーターレース、そしてメカニックなどへの興味を持つようになりました。そのとき抱いた「いつかF1のマシンをつくってみたい」という思いから、機械工学科へ進学しました。

スタッフについて

機械工学科 材料力学研究室松尾卓摩教授

2008年青山学院大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。2012年明治大学理工学部に専任講師として着任。2022年より現職。材料力学研究室にて、材料力学をベースに固体力学、破壊力学、材料科学などの知識を用いた材料や機械、構造物の材料評価や非破壊検査に関連する研究を行う。

研究内容

  • 水素用蓄圧器の状態評価

    新しいエネルギーとして期待される水素の安全な利用を目指し、産学官で連携して水素を貯蔵する圧力容器の非破壊検査手法やオンラインモニタリング手法の研究をしている。将来ガソリンスタンドに代わる水素ステーションのインフラとして活用されることが期待されている。

  • 社会インフラの高経年化対策

    機器や材料が長期間使用されることを高経年化という。鋼製構造物は雨水、海水などによって腐食が発生し、そのモニタリングと損傷などの異常を早期に発見する手法が求められている。現在私たちは、様々な業種の企業と工場やプラントの高経年化対策について共同研究を進めている。

  • スーパープレッシャー気球

    人工衛星より低い高度で数ヶ月程度持続的に飛翔できるスーパープレッシャー気球の研究をJAXAと国立極地研究所とともに進めている。実験では成層圏環境に気球を飛行させ、南極上空の大気観測などを行う。人工衛星でなく、気球を飛翔することでより効率的、汎用的に活用できる観測プラットフォームの実現を目指している。(写真提供:国立極地研究所)

主要な業績

  • 2021.03論文 / 共著

    「南極域における大気重力波のスーパープレッシャー気球観測計画」 宇宙航空研究開発機構研究開発報告 Vol.JAXA-RR-20-009(2021)pp.19-33.

  • 2021.02論文 / 共著

    「AE法を用いた鋼管の腐食深さ評価手法の開発」 材料と環境 Vol.70 No.2(2021)pp.40-46.

  • 2020.03論文 / 共著

    「光ファイバAEセンサを用いたスマート水素蓄圧器の開発」 日本複合材料学会誌 Vol.46 No.2(2020)pp.62-67.

  • 2019.03論文 / 共著

    「被膜の二層化によるスーパープレッシャー気球の機密性の向上」 宇宙航空研究開発機構研究開発報告 Vol.JAXA-RR-19-002(2019) pp.9-24.

  • 2019.12論文 / 共著

    「腐食減肉量とAE波の伝播モードの関連性評価」 材料と環境 Vol.68 No.12(2019)pp.342-346.