教員と研究

自然界の
ものづくりを
学び、
持続的な社会の
実現へ。

応用化学科 無機結晶化学研究室
我田元 准教授
応用化学科 無機結晶化学研究室 我田元 准教授

人類の歴史的にも古くから様々な道具の材料や宝石として利用されてきた無機結晶の育成を研究し、次世代エネルギーや環境材料への応用を目指している応用化学科 無機結晶化学研究室の我田先生。ここでは、自身の研究の魅力や研究の先にあるものについてお話しいただきました。

自然は、なぜ美しいのか。

私が生まれ育った場所は、田舎で周囲は山と田んぼしかありませんでした。幼少期は昆虫が大好きでカブトムシやクワガタを幼虫から育てていました。そして、その頃思い描いていた私の夢は、昆虫博士になることでした。

学校では化学や物理といった理系につながる科目が好きでした。そこで学んだことは物事の成り立ちや現象には理由があるということです。その中で昆虫に関する知識を深めていきつつも、山や渓谷といった自然の美しさに関心を持ちはじめたことを覚えています。自然は、なぜ美しいのか。私はその問いに対して、見た目ではなく、構造やプロセスという視点から究明したいと思うようになり、自然界の成り立ちを研究する道を選ぶことにしました。博士号をとった報告を親族にしたら「本当に博士になったんだね」と言われ、昆虫博士になりたいという思いが、私の研究者としてのはじまりだったのかなと思います。

宝石は、つくることができる。

私が研究の対象としている物質は無機物質の結晶です。結晶とは、原子あるいは分子が3次元的な周期性をもって規則的に正しく配列してできた個体のことをいいます。その規則性が美しさの原点にあるのかもしれません。わかりやすい例でいうと、雪の結晶。美しい結晶は最初から整っているわけでなく、ある自然環境のもと育ち、成長していきます。私は、無機結晶が成長していくプロセスを解析し、人工的な環境での無機結晶の育成を試みています。

ダイヤモンドなどの宝石も無機結晶の鉱物のひとつです。その鉱物の成り立ちを解明することで、人工的に宝石をつくることも可能です。それらは宝飾品としてだけでなく、その硬い性質を利用して研磨材やエレクトロニクス材料など工業製品へと活用することができます。人工的に無機結晶をつくりだすことは、自然界における無機結晶の産出量のコントロールといった難しい課題を解決することにもつながリます。

使い捨ての時代から、循環の時代へ。

自然界の成り立ちを大きな視点からみると、多様な生物と大気、水、土壌などの要素が相互につながり、生態系という循環をつくっています。例えば、植物だったら土壌から養分を摂取し、自らを育て繁殖し、その後土に戻り、植物の種がそのプロセスを繰り返す。もう少し広くとらえると里山での暮らしは多様な生態系があるからこそ、成り立っているとも言われています。私はそのような自然界の法則や成り立ちを工業製品の材料生成プロセスにおいても導入できればと考えています。セラミックを畑で育てるようなイメージでしょうか。

現代の材料生成は多くのエネルギーを使い、自然には還らない多くの物質を排出しています。私は、エネルギーや物質の使い捨てでなく、自然界の生態系のような持続性のある循環型の材料生成プロセスを目指し、これからも無機結晶育成とその解析に関する研究をし続けます。

応用化学科 無機結晶化学研究室 我田元 准教授
結晶は生きている。

この本は、結晶成長に関わる方にはぜひ読んで頂きたい本です。なぜ結晶は成長するのか、そういった本質的な問いと向き合える示唆に富む書籍です。私の研究室では学生の皆さんに配布し、研究の入門書として、ときには立ち返る原点として活用してもらっています。

スタッフについて

応用化学科 無機結晶化学研究室我田元准教授

2011年東京工業大学大学院総合理工学研究科修了。博士(工学)。2016年明治大学理工学部に専任講師として着任。2023年より現職。無機結晶化学研究室にて、無機結晶育成と結晶成長の解析と学理構築によって、それらの環境・エネルギー材料応用について研究を行う。

研究内容

  • 液相法による透明導電膜の作製

    透明導電膜を作成する方法には、主に物理蒸着法(PVD)と化学気相蒸着法(CVD)の2種類がある。そこにある課題は大量のエネルギー消費。液相法による透明導電膜の作製の研究を進め、サステナビリティな作製方法の実現を目指している。

  • 結晶成長のメカニズムの解明

    自然界において結晶という無機物は、条件によって千差万別に成長する。その成長するプロセスを解明し、学理構築を行い、結晶生成の再現を目指している。

主要な業績

  • 2022.12論文 / 共著

    Non-seed chemical bath deposition of ZnO films in a rotating continuous flow reactor with various carboxylic acids and their application to transparent conductive films, CrystEngComm 24(47). pp.8294-8302

  • 2021.10論文 / 共著

    Formation of double-cone-shaped ZnO mesocrystals by addition of ethylene glycol to ZnO dissolved choline chloride-urea deep eutectic solvents and observation of their manners of growth, CrystEngComm 23(47), pp.8367-8378

  • 2020.09論文 / 共著

    Fabrication of plate-like Ta3N5 crystals through evaporation-deposition-re-evaporation of alkali halide fluxes onto tantalum substrates, CrystEngComm 22(35), pp.5723-5730

  • 2020.08論文 / 共著

    Spectroelectrochemical evaluation of a ZnO optically transparent electrode prepared by the spin-spray technique, Electrocatalysis 32, pp.1681-1688

  • 2019.08論文 / 共著

    Alkali metal chloride flux growth of ilmenite-type ZnTiO3 and subsequent nitrogen doping for visible-light-driven water oxidation catalysis, ACS Appl. Energy Mater. 2, pp.7762-7771