2024年度高等学校・中学校入学式

式辞

 桜が新年度を祝福し、一雨毎に春の深まりを感じる本日、明治大学付属明治中学校に177名、ならびに明治高等学校に明治中学校からの内部進学者176名と、高校入試を経ての111名を加えた計287名の優秀な生徒が入学する。本校に合格するには、君たち個人の勉学に対する不断の努力のみならず、新型コロナウイルス感染症の社会的影響が残る中で、ご両親やご家族の献身的なサポートが不可欠であった。本日は、新入生に係るすべての方々にとって喜びの瞬間である。校長として皆さんを心より歓迎する。 
 この晴れやかな瞬間を祝して、学校法人明治大学より柳谷孝理事長をはじめ多くの理事の方々、明治大学から上野正雄学長をはじめ御来賓の皆様が御出席下さった。新年度が始まる御多忙の中、ここにご臨席を賜り、心より御礼を申し上げたい。 
 新入生諸君、本日、この場に集うことのできた喜びを生涯忘れないで欲しい。真新しい制服に身を包み、この学校で新しい友と出会う。新しい出会いである。「春」は常に新しい出会いにめぐり合い、希望に満ちたひと時を感じることのできる季節である。君たちだけではない、私も一九七六年(昭和五十一年)にこの明治高校を卒業し、縁あって昨年から校長を務めることとなり、2年目の春を迎えた。また明治高校、明治中学の教員ならびにスタッフにとっても、新しい出会いは慶びであり、また君たちを大きく育てていくという責任を感じる瞬間である。 
 本校は、一九一二年(明治四十五年)に明治大学の併設校、旧制明治中学校として設立された。一九四八年の学制改革に伴い、新制明治高等学校・中学校となり、本年で創立以来百十二年目を迎え、旧制中学時代を合わせると、実に二万人を超える有意な人材を輩出してきた。 
 本校には、三つの大切な言葉がある。まず、校訓としての「質実剛健」、ならびに「独立自治」という言葉である。そして、もう一つは、本校初代校長、ならびに衆議院議員、貴族院議員などを歴任、極東軍事裁判のわが国の弁護団長、明治大学総長を歴任された鵜澤総明先生が、旧制明治中学校の生徒たちに語った  「第一級の人物たれ」という言葉である。旧制中学校とは、十二歳から十六歳までの中等教育を行い、その卒業生は旧制高等学校や大学予科、高等師範学校などに進学し、当時のわが国のエリートの養成機関であった。それ故、鵜澤先生は、生徒たちに勉学はもちろんのこと、教養人としての立ち居振る舞いや礼節などを備えた人格の陶冶を求めたのである。 
 「質実剛健」とは、こうした「第一級の人物」に価するだけの内容を伴う人材として、誠実で心身ともに逞しく、健やかに成長していくことを意味する。自分は他の人とは違うという自我の意識を保ちながら、けっして自分勝手にはならず、他者の人格をも尊重し、社会の中で役割を果たし、ルールを守ることのできる人になって欲しいという願いである。 
 そしてもう一つの校訓である「独立自治」とは、明治大学の創立者の一人である岸本辰雄先生の思想によっている。私学の雄としての明治大学は、「学問の独立、自由を保ち、自治の精神を養い、人格の完成を謀ること」により、国立大学よりも勝る存在になること、そして本学の教育とは、単に知識を注入するのではなく、学生・生徒が自らの知識を開発できるように支援することに由来している。 
 以上の三つの言葉から、本校の生徒諸君に「この学校では、けっして競争はしない。みんなで助け合いながら、お互いに切磋拓磨し成長しよう」と語りかけている。生徒一人一人が、「第一級の人物」としてその名に価する人格を涵養し、本校での勉学や生活の中で互いに尊敬し、助け合い、ともに成長していくことによって本校の校訓は、諸君の精神に宿っていくのである。 
 明治大学の直系付属校である本校では、一定の推薦基準を満たせば、全員が明治大学に、また明治大学の希望する学部にほぼ全員が進学できる推薦枠をいただいている。さらに、条件付きではあるが他大学にも明治大学への推薦を保持しながら挑戦ができる。わが国の大学付属校としては稀有な存在である。そういう意味からも、本校では他者との競争は意味がなく、友と助け合い、励ましあいながら自己の能力を最大限に向上させていけるのである。 
 本校が設立された百十年前とは異なり、現代社会は人と物の移動速度が格段に速くなっただけでなく、すさまじいスピードで、膨大な情報が伝わり、かつ拡散する社会である。私たちの以前の日常生活や国際的な社会秩序からは、予想のできない事案が突如起こりえる時代となったのである。例えば、新型コロナウイルスが短期間に世界的に蔓延したことや、国際連合の常任理事国であるロシアがウクライナを侵攻していることなどである。そのような事象の中から真実を見出し、それを理解し、他者に伝達していくためには、中等教育で学ぶ広範な知識と、大学で修得する高度な専門知識の双方が不可欠である。文系であっても、数理的な思考が求められ、理系であっても高い言語能力やコミュニケーション能力が求められる時代である。本校での幅広い分野の勉学は、君達に無限の可能性を与えてくれるに違いない。本校生徒として、自らの将来を見据え、大学卒業後に社会の最先端で活躍し、社会に貢献しえる基礎力を、是非、本校で鍛えようではないか。明治大学のリーダーとして,また我が国を牽引している多くの先輩達と同様に、本校を「名門校」として位置付けていく優秀な人材として成長していくことを期待している。 
 校長の私をはじめ、すべての教諭、事務スタッフは、君達の大切な毎日のために努力を惜しまない。助けが必要ならいつでも私たちに語りかけ、問いかけてほしい。この学校で、明るく、楽しく、そして知的蓄積を行う毎日を共に送ろうではないか。 
 
 入学、おめでとう。 

2024年4月6日
明治大学付属明治高等学校
明治大学付属明治中学校
校 長  井家上 哲史