2021年度中学校入学式

 　春の訪れとともに、本日、明治大学付属明治中学校に１８４名の優秀な生徒が入学する。今年の新入生は２００８年の共学化以降、初めて女子の入学者数が男子を超過した学年である。皆さんの入学を心より歓迎する。
　本校に合格するには、君たち個人の勉学に対する不断の努力のみならず、ご両親やご家族の献身的なサポートが不可欠である。本日は、新入生に係るすべての方々にとって喜びの瞬間であろう。本来ならば、この祝賀の席に学校法人明治大学理事長を始め、大学長、学部長、さらに同窓会、保護者会などから多数の来賓が同席し、諸君を迎え入れるはずであった。しかし、新型コロナウイルス感染防止のために入場者数を制限せざるを得なくなってしまい、校長として誠に申し訳なく思う。
　さて、本校は１９１２年に旧制明治中学校として神田駿河台に創立され、１０９年の歴史と共に１万６千有余の優秀な人材を輩出してきた明治大学直系の付属校である。本校には、本校関係者が大切にしている三つの言葉がある。まず、校訓としての「質実剛健」、ならびに「独立自治」という言葉である。そして、もう一つは、初代校長であり創設者である鵜澤総明先生が、当時の生徒たちに語った「第一級の人物たれ」という言葉である。
　当時の旧制中学校とは、１２歳から１６歳までの中等教育を行い、その卒業生は旧制高等学校や大学予科、高等師範学校などに進学ができ、わが国のエリートの養成機関であった。それ故、鵜澤先生は、生徒たちに勉学のみならず、教養人としての立ち居振る舞いや礼節などを備えた人格の陶冶を求めたのである。
　「質実剛健」とは、こうした「第一級の人物」に価するだけの内容を伴う人材として、誠実で心身ともに逞しく、健やかに成長していくことを意味する。自分は他の人とは違うという自我の意識を保ちながら、けっして自分勝手にはならず、他者の人格をも尊重し、社会の中で役割を果たし、ルールを守って行ける人となって欲しいという願いである。
　そしてもう一つの校訓である「独立自治」は、明治大学の創立者の一人である岸本辰雄先生の思想によっており、フランス法学を学ぶために設立された明治法律学校の建学の理念「権利自由」と並ぶ大切な理念の一つである。
　私学の雄としての明治大学は、「学問の独立、自由を保ち、自治の精神を養い、人格の完成を図ること」により、官立よりも勝る存在になること、そして本学の教育とは、単に知識を注入するのではなく、学生・生徒が自らの知識を開発できるように支援することに由来する。つまり、岸本先生は、明治大学の教育方針を、学生・生徒自らの「開発主義にしてまた自由討究主義なり」としたのである。
　以上の三つの言葉から、私はこれまで、本校の生徒諸君に「この学校では、けっして競争はしない。他者を尊重し、助け合いながら、お互いに切磋拓磨し成長しよう」と優しい言葉で語りかけてきた。生徒一人一人が、「第一級の人物」としてその名に価する人格を涵養し、本校での勉学や生活の中で互いに尊敬し、助け合い、ともに成長していくことによって、本校の校訓は諸君の精神に宿っていくのである。
　近年の本校卒業生の活躍には輝かしいものがある。中学校卒業生は、ほぼ全員が実用英語技能検定の準二級に合格し、高校卒業生は英検二級やそれ以上の等級に合格している。また、大学進学後は明治大学の複数の学部卒業生総代をつとめ、司法試験や公認会計士試験、国家公務員総合職試験などの難関試験にも多くの卒業生が大学在学中、あるいは法科大学院在学中に合格している。
　明治中学生は、一定の基準を満たせば、全員明治高校に進学が可能であり、さらに明治高校生は、本校が定める大学への推薦基準を満たせば、全員が明治大学の希望する学部に進学できる。また、明治大学だけではなく、他大学にも明治大学への推薦を保持しながら挑戦ができる、わが国の大学付属校としては稀有な存在である。
　そういう意味からも、本校では他者との競争は意味がなく、友と助け合い、励ましあいながら自己の能力の最大限の向上に努めていける環境なのである。明治中学・明治高校を通しての六年間は君たちの人生において、とても大切な時間である。一時も無駄にすることなく、常に勉学に励み、自らを律する生活を送って欲しい。特に、明治中学校での三年間は、勉学への取り組み方、テークノートの方法、学校という集団生活の中での規律などを学び、少年少女から青年に成長していく時間である。
　校長の私をはじめ、すべての教諭、事務スタッフは、君達の大切な毎日のために努力を惜しまない。助けが必要ならいつでも私たちに語りかけ、問いかけてほしい。この学校で、明るく、楽しく、そして知的蓄積を行う毎日を共に送ろうではないか。
　入学、おめでとう。