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「18歳からの選挙権について学ぼう」対談:井田正道政治経済学部教授×斎藤ちはるさん(文学部2年・乃木坂46)



選挙権年齢を20歳以上から満18歳以上に引き下げる改正公職選挙法が2016年6月から施行され、最初に適用される参議院議員選挙が目前に迫っています。今回の選挙では、初めて主権者として「自分の選択」を行う大学生も多いことから、政治経済学部で計量政治学(選挙分析・世論研究)を専門に研究している井田正道教授と、文学部2年生で今回初めて選挙権を得た斎藤ちはるさんが、若者の政治参加について対談をしました。
(本ページの内容は2016年7月時点のものです)

世界は18歳以上がスタンダード



斎藤ちはる:
先生、まず、なぜ選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたのか、その背景を教えてください。

井田正道:
世界の国々を見てみると実は選挙権年齢が20歳以上の国は少数派なんです。南米諸国が19世紀から20世紀初頭にかけて、選挙権年齢を18歳以上に引き下げ、欧米では、1970年ごろに18歳への引き下げが行われました。

斎藤:
南米がそんなに早かったとは知りませんでした。

井田:
アメリカの場合はベトナム戦争が大きく影響しています。徴兵制のもと、戦場で命を犠牲にするのは若者なのに、政治に参加する権利がないのは不公平ということで選挙権年齢が引き下げられました。その後、途上国も次々に選挙権年齢を下げ、今では9割近くの国が18歳までに選挙権を付与しています。

斎藤:
選挙権年齢は18歳以上がグローバル・スタンダードだったのですね。

井田:
未来を担う若者が国の行く先を考え、投票する機会を得ることは当然とも言えます。ところで斎藤さんにも選挙の案内が届いたかと思いますが、受け取ったとき、どう感じましたか。

斎藤:
「政治に関われる」というよろこびと同時に、うれしいけれど、少し緊張もしました。

井田:
緊張したと言われたけれど、それはとても大事なことです。選挙権を得たことは、日本の未来に責任を負うことでもあるからです。

斎藤:
権利と責任が同時に生じるということですね。1票の重さを感じます。

若者が選挙に興味を持てない訳は



井田:
斎藤さんはお友だちと選挙について話すことはありますか。

斎藤:
仲の良いグループに1人、とても関心が深い友人がいて『せっかく選挙権があるのにどうして投票に行かないの』と怒っています。反対に興味がない人はまったく関心がなく、その差が大きくて、なかなか話がしづらいです。

井田:
その友だちは何で怒っているんでしょう。今の社会に不満があるのかな。

斎藤:
言い方は悪いけれど、現状は高齢者が私たちの将来を決めているようなものだと。もっと若い人の意見を反映させたいのに、投票しなければそれができないと言っていました。

井田:
そういう学生もいるんですね。逆に興味がない学生はどうしてそうなるのだと思いますか。

斎藤:
どの党がどんな政策を立てているか、分かりにくいからだと思います。一方で政治家の悪いニュースは後を絶たず、イメージは悪くなるばかりですし。

井田:
20年ほど前、ある短期大学でアンケートをとったときも、答えはほぼ同じでした。“政党の主張の違いが分からない”というのは、一時期政党が合従連衡を繰り返したことで、余計不明瞭になっています。

斎藤:
今も政党が合併したり、解党したりしていますね。

井田:
そういう意味での分かりづらさは解消されていません。また“そもそも政治と自分の関わりを感じない”という意見も多い。でも私のゼミの学生に聞くと『どうせ自分たちは年金もらえないので』と言っています。そういうことに怒りや不公平感はありませんか。

斎藤:
怒りというより、どうにかならないかなとは思います。

井田:
“1票では何も変わらない”という理由もよく聞かれます。しかし、今回のイギリスの国民投票では52% vs 48%でEU離脱派が勝ったでしょう?これくらい僅差だと1票でも影響がある気がしませんか?

斎藤:
私たちが1票を投じる意味は決して小さくないということですね。

民主主義が民主主義であるために



井田:
例えば、友だちグループでも、一部の人で物事を決めてしまったらどうですか。

斎藤:
イヤですね(笑)。なぜ私の意見も聞いてくれないの?って思います。

井田:
それと同じです。投票率が低ければ低いほど民主主義は機能しなくなる。それに、これからの人生が長い若者の方が、選挙結果から受ける影響も大きいのに、現実の投票率は逆になっています。

斎藤:
若い人がもっと選挙に行くにはどうしたらいいでしょう。

井田:
一つは主権者教育があります。しかし、日本の学校教育では政治的中立性が重視されているので、公平で、なおかつ有効な教育を行うのは大変難しい問題です。むしろ家庭で政治や選挙について対話することが鍵を握っているかもしれません。

斎藤:
実は、先日祖母から電話があって『選挙には必ず行きなさい』と言われました。

井田:
良いアドバイスですね。誰に投票するかを考えるために、ご家庭でも話をしてみてください。

まずは投票所に行ってみること



井田:
投票には責任がともなうと言いましたが、もっと気軽に選挙に参加しても良いとも思っています。というのは、今回新たに選挙権を得た18~19歳は240万人と言われていますが、これは日本の全有権者の何%にあたると思いますか。

斎藤:
うーん、0.5%くらいでしょうか。

井田:
残念!(笑)。もう少し多いですが、それでもわずか2%程度です。もともと人数が少ないので、大きな影響はないとも言えます。だから、まずは投票に行って、この世代も選挙に関心があると示してほしい。

斎藤:
大学生になって、自分の判断が求められることも増えてきました。何より自由な時間が多いので、分からないなら自分から情報を得ることも大事ですね。

井田:
選択が間違いだったとしたら、また修正できるのも民主主義です。政治や選挙に関心を持つ人が少しでも増えるように、選挙権を行使する大切さを伝えるよう、私も努力したいと思います。

斎藤:
今日は、大切なお話ができて楽しかったです。良い機会なので、私もよく考えて投票に行こうと思います。ありがとうございました。

プロフィール



斎藤 ちはる(さいとう・ちはる)
本学文学部2年生。現在、乃木坂46のメンバーとして活躍中。勉学と芸能活動を両立させ多忙な毎日を過ごす。

井田 正道(いだ・まさみち)

本学政治経済学部教授、政治経済学部政治学科長、明治大学リバティアカデミー副アカデミー長。
早稲田大学商学部卒、明治大学大学院政治経済学研究科博士後期課程単位取得退学。常磐大学専任講師、明治大学専任講師、助教授を経て2006年より現職。2012年3月から2014年3月までデューク大学客員研究員。著書として『日本政治の潮流』(北樹出版)、『世論調査を読む』(明治大学出版会)など。