Go Forward

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業/明治大学研究クラスター

「日本の政治家、官僚、経済人、学者はなぜ地球規模の問題に関心が薄いのだろうか。『人口』『環境』『軍縮』・・・」これはちょうど今から20年前の『朝日新聞』(1995年9月6日、朝刊)に当時の編集委員が書いた一文です。その後、「人口」と「環境」については、それなりに関心が高まったと思いますが、「軍縮」に関する関心は、残念ながら依然として低いままです。
 かつてノーベル賞学者のクライン・米ペンシルバニア大学名誉教授は「人口、環境など第三世界に関係ある問題を解決する費用は結局、日欧米の三極が負担するほかない。だが、軍縮を進めない限り、十分なカネは出ようがない。経済学者として軍縮に関心を持つのは当然ではないか」と言っています(『朝日新聞』同上)。
 しかし、軍縮・軍備管理の問題に対する経済学者の関心は依然として低いままです。複雑化した現代の軍縮・軍備管理問題は、歴史を遡ることによって、その本質的構造を浮彫にすることが期待できるかも知れませんが、残念ながら歴史研究の分野でもあまり大きな成果は見られませんでした。
 さて、前置きが長くなりましたが、この度、文科省より「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(大型研究)」に採択された私たちの研究プロジェクト「軍縮・軍備管理と武器移転・技術移転に関する総合的歴史研究」は、経済学・歴史学・政治学等さまざまな学問分野と協力し、また海外研究諸機関とも交流を図りながら、次の3つの課題の実現に努めていくこととなりました。
 第1は、明治大学における新たな研究拠点の形成です。わが国を代表する最先端の研究機関として、研究成果の世界への発信を目指していきます。第2は、軍縮・軍備管理に関する研究成果を学部の教育にも広く還元し、次代を担う学生たちの国際的な平和感覚の涵養に努めていきます。そして第3には、軍縮平和研究に取り組む若手研究者の育成です。世界の大学では軍縮平和研究はきわめて高い水準に達しております。国際化を標榜する明治大学にとって、これは急務の課題です。言い換えれば、これが明治大学から期待されている課題と考えています。
 私たちの研究プロジェクトは、国内スタッフ20名、海外の研究協力者4名、総勢24名で構成されていますが、ほぼ毎月のペースで開催されている研究会には、その他にも新聞記者、民間の研究者、ジャーナリスト、大学院生など多数の参加者も交えて、活発な議論が行われています。

 なお、私たちの研究プロジェクトの課題は、総合的歴史研究を通じて軍備管理・軍縮を阻む本質的構造の解明に努めることにありますが、それだけではありません。一昨年の4月に国連総会で武器貿易条約(ATT)が成立し、本年8月末にはメキシコで第1回締約国会議が予定されています。一方、わが国では10月に防衛装備庁が発足し、民間企業や大学をも取り込んで、防衛装備移転三原則に基づく武器の輸出や国際的な共同開発が進められようとしています。ともすれば歴史学の研究は過去の事実の解明にのみ重点が置かれがちですが、私たちは「グローバル」な歴史研究と「現在」の諸問題をめぐる論議を結び付けた学際的・国際的な取り組みを重視して、上記の3つの課題を追求していきます。

2006年6月国連ビル前広場で武器規制強化を訴える 国連会議場前のモニュメント