教養デザイン研究科

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PICK UP 教養デザイン 「教員が語る」 ~思想コース編~

教養デザイン研究科は、人類が直面する諸課題を包括的に探究するため、「思想」、「文化」、「平和・環境」の3つの領域研究コースを設置しています。
今回は、その中で、現代社会を読み解く鍵となる哲学・倫理・宗教について、グローバルかつアクチュアルな視点から考察し、多面的な研究にも取り組んでいる「思想」コースから、三名の先生をご紹介します。

哲学的な素養を身につけ、スポーツや身体について探究する

「思想」領域研究コース 釜崎 太 准教授



私は現在、消費社会のなかのスポーツや身体を現代思想の視点から捉え直そうとする研究に取り組んでいます。例えば、イギリスのリコー・アリーナにはショッピング・モールが併設されていて、ショッピングの最中にラグビー観戦を楽しむことができます。アメリカのリーバイス・スタジアムでは、スマートフォンの専用アプリからの注文で、ホットドッグでもビールでも欲しいモノが座席までデリバリーされます。皆さんも「行ってみたい」と思うのではないでしょうか。実は、この「行ってみたい」という気持ちのなかに、消費社会の構造が隠されています。ホットドッグにひかれて、スタジアムに行きたくなったわけではないでしょう。つまり、「モノ」ではなく、まだあまり知られていない空間での飲食やショッピングを楽しむことで、少し違う自分になる。この「差異(意味)」の消費に、現代社会の特徴があるのです。
スポーツ界には、つい最近まで、「アマチュアリズム」と呼ばれる金銭の授受を否定する考え方がありました。しかし、スタジアムの例にみられるように、ここ数年、スポーツも消費社会のなかでの意味を増大させています。まずは、このようなスポーツの変化を具体的に分析してみる必要があるでしょう。日本のプロ野球はいかなる経営戦略で観客動員数を伸ばしたのか。欧州のサッカーリーグはどのようにして莫大な移籍金の支払いを可能にしているのか。興味深いのは、こうした問いを探究していくと、高度消費社会の病理を指摘する現代思想との接点がいくつも見えてくることです。例えばドイツのブンデスリーガは、世界で最も観客を集めるサッカーリーグとして注目されていますが、その成功は19世紀に「公的領域」として形成された地域スポーツクラブの広がりを足場にしています。つまり、アーレントが指摘するような、「公的領域」と「私的領域」の区分を不明瞭にしてきた市場経済的な「社会」の問題と、ブンデスリーガの成功は密接に関係しているのです。



もうひとつの具体例として、コンピュータ判定システム(フォーク・アイ)やバーチャル・リアリティ(仮想現実)を利用したスポーツの商品化があげられます。こうした現象は、消費社会とメディア・テクノロジーの結びつきが生み出したハイパーリアリティ(ボードリヤール)、あるいは人工知能をモデルとする情報処理型思考の浸透(ドレイファス)を背景にしています。バーチャルな映像世界に取り囲まれている現代社会にあって、私たちには何がリアルなものとして残されているのでしょうか。私は、ポラニーの身体知やシュスターマンの身体感性論にその答えの手かがりが求められるだろうと考えています。
教養デザイン研究科の思想コースには、異なる領域の研究者が所属しています。私のようなスポーツの研究者と、フランス現代思想の研究者が同じコースに所属している大学院は希でしょう。スポーツや身体は西洋哲学の伝統のなかで周縁に位置づけられてきましたが、その思想的研究の重要性は日々増しています。哲学的な素養をきちんと身につけ、スポーツや身体について探究すれば、必ずや素晴らしい成果が得られるはずです。私自身、思想コースに学ぶ学生さんたちの研究に大いに期待し、超領域的な知の創造を楽しみにしています。



【プロフィール】
氏名:釜崎太
所属(研究科コース):教養デザイン研究科「思想」領域研究コース
研究分野:スポーツ思想
研究テーマ:スポーツ論,身体(教育)論
学位:博士(教育学)
主な著書・論文:人間の教師には何ができるか—ドレイファスの人工知能批判と身体教育—(『明治大学教養論集』2016年),ドイツ第二帝政期におけるFußball(フースバル)の誕生—教養市民コンラート・コッホの理想と現実—(『明治大学教養論集』2014年),思想としての“広島”オリンピック—もうひとつの平和運動をひらく「痕跡たち」—(『現代スポーツ研究』2011年)など



枠組みにとらわれず思考を掘り下げる

「思想」領域研究コース 井上 善幸 教授



「思想」コースで教えている井上です。わたしの「目下の研究テーマ」の一つに、1960年代の文学と思想に注目し、それらの間にみられるある共通した問題意識を探り当ててみたいということがあります。具体的なところでは、サミュエル・ベケット、ジャック・デリダ、スーザン・ソンタグに光をあて、かれらに共通する思想はなんなのかを考えてみたいと思っています。ベケットは1906年にアイルランドで生まれ、後にフランスで活躍した小説家・劇作家で、デリダは1930年にアルジェリアに生まれた哲学者で、パリのエコール・ノルマル等で哲学を教えていました。ソンタグは1933年にアメリカで生まれた批評家で作家です。国境を越え、言語の枠を超え、ジャンルを超えて、かれらの切り拓いた地平をもう一度辿り直してみたいと思っています。それらを読み直すことにより、既存の知の体系では同定することの困難な未知の領域を開拓できればと願っています。

また、これまで文学と哲学とのつながりを中心に研究してきましたが、最近は心理学、あるいは精神分析の重要性について考えるようになりました。既存の学問の枠組みにとらわれることなく、ひとつの問題をそれらの枠を横断しつつ研究することは、大変刺激的です。そもそも、このような枠組みは恣意的で制度的な虚構に過ぎず、それらに絡めとられることなく、それらの枠組みを懐疑しつつ研究したいと考えています。そのためには、複数の語学の勉強はきわめて重要だと思います。

「コースの特色や魅力」については、このコースは、さまざまな分野に自在に参入することができることだと思います。思想を扱うのですから、ある特定の対象に縛られる必要はありますまい。文学を経済学の目を通して分析することも、哲学を文学に接続することも、さらにはそれらの枠を取り外す作業そのものを批評へと変換することも可能です。美を算術に接続することも、映画を精神分析の視点から考察することもできます。そのような《脱領域》的な思考を涵養する場として、思想コースに身を置き、自由に研究しつつ、新しい学問のありかたを探求してほしいと思います。あなたも知のトンネル掘削作業に参加してみませんか?
 【プロフィール】
氏名:井上 善幸
所属(研究科コース):教養デザイン研究科「思想」領域研究コース
研究分野:ヨーロッパ文学と哲学、批評、アメリカ現代文学、精神分析
研究テーマ:サミュエル・ベケット、ジャック・デリダ、フランス哲学、モダニズム、草稿研究
学位:修士(立命館大学)
主な著書・論文:『サミュエル・ベケットと批評の遠近法』(共編著;未知谷、近刊予定)、「ベケットとオースター」(『明治大学教養論集』2014年)、Beckett and Animals (Co-authored; Cambridge UP, 2013), 『ベケットを見る八つの方法──批評のボーダレス』(共著;水声社、2013年)など。

今、目の前にあるテキストやできごとが、少し違って見えてくる

「思想」領域研究コース 本間 次彦 教授



 今年の9月に、法政大学出版局より「キーワードで読む中国古典」シリーズの第一巻として、二人の研究仲間(中島隆博・林文孝)と『コスモロギア——天・化・時』を刊行しました。この本でとりあげた「天」「化」「時」は、中国人がその文化的伝統の中で世界の秩序を実感し、それを理論化しようとする際には欠かすことのできない用語です。「天」「化」「時」は相互に緊密に関係づけられながらも、まったく同じ対象や事がらを指しているわけではありません。大まかに言えば、「天」は、この世界を根拠づける何ものかを指し、「化」は、この世界に生じる変化の多様性とその安定的秩序を指し、「時」は、この世界に生じる変化を前後に区別し、個性化する刻印を指します(「時」は、いわゆる時間ではありません)。『コスモロギア——天・化・時』が目ざしたのは、これらの用語を通して、複線的に中国思想を語り直してみることでした。このような着想自体はなかなか斬新なものであると思っています。ただ、叙述のできばえを評価するのは読者の皆さんです。ぜひ手にとってご覧いただければ幸いです。



私が分担したのは、そのうちの「化」の章です。「化」に関連する文献として、最も重要なものは、やはり『易経』でしょう。『易経』は、占いの書ですが、単なる占いの書ではありません。なぜなら、『易経』の中に記されているのは、陰と陽の六重の組み合わせによって生みだされる小宇宙である、と考えられてきたからです。その小宇宙は、実在する宇宙を反映し、さらに、現実の人間世界を反映しているというだけではありません。一定のパターンの下に、宇宙と世界の過去を記憶し、未来を指示する(だから、占いの根拠になります)という意味での小宇宙なのです。そこから、『易経』を読解することは、この世界を空間的にも時間的にも総体として考察することに等しい、と考えるようになるのも自然な流れでした。「化」の章は、そのような意味での『易経』解釈の歴史から始まって、最終的には、毛沢東の『矛盾論』や中国医学、風水などにまで説きおよんでいます。詳しくは、読んでからのお楽しみです。

 実は、今年の12月に刊行が予定されている同シリーズの第二巻『人ならぬもの——鬼・禽獣・石』にも、私は原稿を提供しています。こちらの方では、私の分担は「禽獣」の章でした。人は、どのような意味で禽獣(動物)とは異なると考えられてきたのか、また、禽獣は、人との関わりでどのような存在として描かれてきたのか。この二点が、この章のテーマになっています。お手本となるような先行研究がない中で、さまざまな思想文献や文学作品を試行錯誤的に渉猟したことはえがたい経験となりました。現代思想の分野でも動物論に対し、最近関心が向けられるようになっています。そのような動向とも期せずして一致することになり、自らの研究に新たな局面を開くことができたように思います。

 「思想」領域研究コースでは、学生の皆さんたちに対し、あらゆる文化的事象に原理論的な考察を向けるようにうながします。そのような考察を反復することで、今、目の前にあるテキストやできごとは、それ以前とは少し違って見えてくるようになるでしょう。それが批判的思考の萌芽です。本コースが目ざすのは、皆さんの批判的思考力を最大限に醸成することです。

【プロフィール】
氏名:本間次彦
所属(研究科コース):教養デザイン研究科「思想」領域研究コース
研究分野:中国前近代思想
研究テーマ:中国前近代思想の批判的再検討(日本近世思想史批判を含む)
学位:文学修士
主な著書・論文:『コスモロギア——天・化・時』、「シリーズ・キーワードで読む中国古典」1、共著、法政大学出版局、2015年/B.A.エルマン『哲学から文献学へ——後期帝政中国における社会と知の変動』、共訳、知泉書房、2014年

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