国民とは何か。本書は、「ドイツ」近現代史の事例からこの古くて新しい問いを考える最良の一冊であろう。「国民の存在は日々の人民投票である」。本書を読みながら、まず頭に浮かんだのは、1882年にフランスの宗教史家エルネスト・ルナンが語ったこの言葉だ。国民とは、人びとの同意、共に生きたいという願望、また過去の遺産を共有し、それを共同で活用しようとする意志によって作られるものだというルナンの主張である。
しかし、本書はそうしたオーソドックスな国民理解に留まらず、そもそも「国民」や国籍、領域/集合体としての「ドイツ」、「○○語圏」が指し示すものが、ドイツでは、フランスや日本とは大きく異なることを教えてくれる。
紹介者:前田 更子(教養デザイン研究科教員・政治経済学部教授)