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教養デザイン ブック・レビュー

川野 明正(教養デザイン研究科教員)監修、ミノシマタカコ著『狛犬さんぽ』グラフィック社出版(2020年)

紹介者:張 帥(教養デザイン研究科博士後期課程在学(3年))



 この本を読むことは、日よけ帽子をかぶり、カメラを手にし、日本各地で狛犬ツアーに参加するようなものだ。換言すれば、これは参加感が高い一冊である。
 著者ミノシマタカコは、狛犬の愛好家で日本参道狛犬研究会会員、狛犬さんを愛でる会の主宰である。そして、監修者は本学教授の川野明正である。川野教授はアジアの民間信仰を獅子像や妖怪・呪術・呪符などのテーマから研究する民俗学者であり、本書の中では「狛犬先生」として登場する。
 二人は案内人だ。
 想像してみよう。狛犬の前に立って、左側の人が自分の思う素敵な狛犬を説明し、右側の人がディープな歴史や豆知識を解説してくれる。リラックスした雰囲気の中で知識を得ることができるこの旅には、何度でも足を運びたくなるだろう。
 旅に出る前に、先ず旅先の主人公について知ることが大切だ。それに応えてくれるのがpart1、「狛犬の基礎」である。ここでは狛犬の正式名称、歴史、分類を説明してくれる。そして、狛犬の外見について、尾の形状や付属品、材質など、より具体的で多様な観察ポイントを紹介している。また、旅のマニュアルとして、「狛犬さんぽのNG五カ条」も示されている。
 Part2の「個性的な狛犬を探しに行こう! 」が、旅のスタートである。著者は、南から北へという地理的な順序にこだわらない。その代わり、狛犬を形状、表情、物語、素材によって、例えば「ゆるかわ狛犬」「笑顔がかわいい! 癒された狛犬」「インパクト大! 不思議な形の狛犬」など、9つのセクションに分類している。滋賀県に来たと思いきや、ページをめくると大阪府に到着。まさに「どこでもドア」を利用して日本全国を旅するような感覚である。この分類は、初めて狛犬に触れる読者にとって、各地の狛犬の特性と、その相違点や類似点を理解するのに役立つ。一方で、空間の限界を破り、読書の新鮮さや驚きの感覚も高めてくれる。行間には、感嘆符がいくつも使われており、著者の狛犬に対する感情が手に取るようにわかる。
 巻末では、南部鉄器製の啄木狛犬やプラモデルキット、ガチャガチャなど、神社の授与品から市販のグッズまで、家でも狛犬と一緒にいることができるグッズが紹介されている。狛犬は、現在、日本人の生活の中にさまざまな形で登場している。石像以外でも、アニメ番組や電車広告などに、狛犬の姿が時々現れる。ユニークで多彩な造形、そのご利益など、個性的な狛犬は経済を回すという一面もある。
 本書は著者と監修者のフィールドワークによる発見が凝縮されており、狛犬研究の資料として価値が高い。また、豊富な写真と平易でなじみやすい文章により、この本を幅広い読者に届けることを可能にしている。新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、遠出することが困難になっている今日、本書はわれわれの心にささやかな安らぎを与えてくれるだろう。
 狛犬の多くは硬い石から削り出されている。本書の文章の構成やイラストのレイアウト、獅子像の描写などから感じられるのは、著者の目から見た、狛犬の暖かさである。

監修者プロフィール

氏名:川野 明正
所属(研究科コース):教養デザイン研究科「思想」領域研究コース
職格:教授
研究分野:中国民俗学・東アジア比較文化論
研究テーマ:東アジアの民間信仰(呪術・神像版画・石獅・狛犬)
学位:博士(文学)
主な著書・論文:
『中国の〈憑きもの〉─華南地方の蠱毒と呪術的伝承』(単著)(風響社・2005年)
『神像呪符〈甲馬子〉集成─中国雲南省漢族・白族民間信仰誌』(単著)(東方出版・2005年)
「巴蜀古鎮論第1部・全体像と概観」(単著)『人文学報』No.448 首都大学東京中国文学研究室 pp.27-104(2011年)

※内容やプロフィール等は公開当時のものです
明治大学大学院