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研究科長あいさつ

「人間らしく生きるための教養、という専門」

教養デザイン研究科長 加藤 徹

加藤 徹 研究科長 加藤 徹 研究科長

 教養デザイン研究科は、2008年4月に和泉キャンパスで発足しました。早いもので今年の春(2026年)で満18年を迎えます。人間にたとえれば成人です。この間、修士学位を195名、博士学位を13名に授与するなど、研究科としても着実に成熟してまいりました。
 とはいえ、「教養デザイン」という研究科名をご覧になって、「どのような学びを行うところなのか」と疑問を抱かれる方は、現在も少なくないようです。
 大学院は「高度の専門性」を教授研究する場です。学校教育法第九十九条第一項にも、次のように定められています。
「大学院は、学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い、文化の進展に寄与することを目的とする。」
 ここで、次のような疑問を抱く方がいます。
「教養とは、大学の学部生が1・2年次に学ぶものではないのか。なぜ、大学院で教養をあつかうのか。」
 しかし、教養と専門は、別々のものではありません。「教養は初学者向けで、専門は上級者向け」という理解も、必ずしも適切ではありません。
 以下、教養と専門について、比喩を用いて説明します。
 
 英語では自由業を freelance すなわち「自由の槍」と言います。昔の傭兵や足軽に必要なのは、自前の武器と、世界の見取り図でした。どこに行けば活躍できるか、誰と仲間を組むべきか。そうした判断を行うためには、見取り図も欠かせません。現代社会でいえば、随時更新可能なオンラインのデジタルマップです。
 地図は、目的地を探すためだけのものではありません。他の仲間たちと出会ったら、それぞれが自分の地図を見せ合い、歩んできた道と知見を共有し、チームを組み、問題解決のために協働することになります。
 武器は専門、地図は教養の比喩です。中には「地図作りこそが自分の武器」つまり「自分の専門は教養である」という人もいるでしょう。
 21世紀の今日、科学技術は驚くべき速度で進化し、社会の常識は次々と更新され、世界の勢力図も短期間で激変します。だからこそ、随時アップデートされるデジタルマップのような「教養をデザインし続ける力」が、個人にも組織にも求められています。
 
 教養デザイン研究科の英語名称は Graduate School of Humanitiesです。「人文系大学院」とも訳せますが、humanity には「人間らしさ」という意味もあります。現代社会の激動のなかで、人間が人間らしく生きるためには、どうすればよいのか。細分化されてしまった学問を再編し、人間がまっとうに生きられる社会をつくるための「教養」を、いかにデザインするか。それを専門的に研究する大学院が、教養デザイン研究科です。
 
 では、具体的に、本研究科の教員や院生は、どのような研究を行っているのでしょうか。教員や院生の論文の多くは、ネットで公開されています。教員による共著『野生の教養』などの書籍も刊行されています。ぜひ、それらをご参照ください。
 本研究科の研究対象そのものは、他の大学院と大きく変わりません。文芸作品や、スポーツ、思想史、科学技術、政治、経済など多岐にわたります。他の大学院との違いは、研究の「スタンス」にあります。
 本研究科の公式サイトの「人材養成その他の教育研究上の目的」には、次のようにあります。
「教養デザイン研究科は、21世紀において人類が直面している諸課題を総合的・学際的に考察し、公共的観点に立って主体的に行動することのできる人材の養成を目指す。教育研究のテーマは『人間性とその適正な環境の探求』と、新時代にふさわしい『知の創造(デザイン)』である。」
 人間らしく生きることが困難な状況に置かれている人々がいる。どうすればよいのか。さまざまな角度から考えよう。知恵を集めよう。研究によって得られた知見を社会と共有しよう。本研究科の教員や院生の研究分野は幅広いものの、この研究姿勢は共通しています。
 
 本研究科は、「思想」「文化」「平和・環境」の3つの領域研究コースを設置しています。院生には、所属するコース以外の授業も履修することを推奨しています。例えば、ACG(アニメ・漫画・ゲーム)やLGBTQなど現代的なテーマを研究する院生は、歴史をさかのぼって得た知見を論文作成に生かす。古典や伝統を研究する院生は、現代における継承の問題やナショナリズムの副作用についても考察する。自然科学的なテーマの研究において、人文科学や社会科学の理論を援用する。こうした学際的な往還が、本研究科では日常的に行われています。
 博士前期課程を修了して修士学位を取得し、修了する院生もいます。また、博士後期課程に進学して博士学位を取得し、研究職を目指す院生もいます。
 
 本研究科は、通常の授業のほか、特別講義や映像資料プログラムなど、学外の一般の方にもご参加いただけるイベントも随時実施しております。興味関心のある方は、ぜひ事務室までお気軽にお問い合わせください。
明治大学大学院