第571号(2006年5月1日発行)
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「メンデルスゾーンとアンデルセン」 中野京子著 (さ・え・ら書房、1500円) |
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ハンス・アンデルセンとフェリックス・メンデルスゾーン −19世紀を代表する2人の芸術家は新世紀初頭、それぞれ、デンマークとドイツに生まれた。ハンスは極貧の靴屋の子、一方のフェリックスは銀行家を父に持つエリート。
ただしメンデルスゾーン家は長く迫害されたユダヤ人。2人はともに、フランス革命なかりせば社会的な地位をかちえることはなかったはずの、新時代の人間解放の理想の申し子だった。だが、この時代、その理想は見失われ、新しい形の階級差別や悪しきナショナリズム、つまり、民族排外主義がはびこりつつあった。若き天才メンデルスゾーンはまさにその民族憎悪の標的となった。
時代の理想と矛盾の申し子でもある2人はやがて、深い友情で結ばれる。いや、それはスウェーデン出身の天才女性歌手ジェニー・リンドをめぐる愛のドラマでもあった。未婚の母のもとに生まれ、国民的世界なアイドルとなったリンドは、しかし、同じ境遇のハンスではなく、繊細なフェリックスにひかれてゆく。
音楽史への造詣も深い著者による本書は、児童向けではあるが、描かれているのは深く重い、大人のための愛のドラマだ。
永瀬唯・理工学部講師(著者は理工学部講師)
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