明治大学
English Korea Chinese Chinese 交通アクセス お問い合わせ サイトマップ
明治大学TOP > 明治大学広報 > 第571号(2006年5月1日発行)
明治大学広報
第571号(2006年5月1日発行)
論壇
総合大学の中の文学部と人文学
文学部長 吉村 武彦
明治大学広報TOPへ













 昨今、マスメディアを通して「幼児虐待」や「親殺し」など、目を疑うような出来事が飛び交っている。これまでの社会的規範が、確実に壊れかかっている。
 
 また、「競争原理の導入」や「改革の継続」など「時代の転換」を迫るキャッチフレーズも日常的に叫ばれるようになった。「失われた10年」を経て、かつてもてはやされた「日本的経営」は死語となったのであろうか。
 
 明治大学は、創立125周年を迎えた法学部を筆頭に、8学部を有する総合大学である。各学部には、固有の設置理由と目的があり、学部自治の原則で運営されてきた。相応の改革を進めてきた結果、たとえば2006年度の文学部一般入試志願者は1万2693人となり、この10年で最高の人数となった。
 
 しかし、「学の明治」として、大学全体の人材を活用し、総合大学にふさわしい「知の発信」をしてきたかと問われれば、否定的にならざるをえない。ようやく文部科学省の各種GP(グッド・プラクティス)に採択されるようになったとはいえ、21世紀COEプログラムには手が届かなかった。
 
 私立大学の文系は学部教育に基軸をおくことが必須であり、そのことに全く異存はない。むしろ、その教育環境を豊かにするため、大学院の役割がさらに重要になっている。ただし、いずれは理工学部・理工学研究科のように、6年一貫教育を実施する時期を迎えるであろう。
 
 さて、「改革の時代」や「競争の時代」といわれる現在、「人間とは何か」という、人間性の本質を根源的に問う必要が増している。今日こそ、旧来の枠にとらわれない、人間を研究対象とする人文学研究が喫緊であり、時代の変化に対応できる新しい人文学の脱構築が待たれている。その人文学を、主に教育・研究する学部が文学部であるが、ほかの学部における人文学教育の重要性もけっして軽くはない。
 
 こうした人文学教育は、必ずしも年齢を問わない点に特徴があり、その教育対象は18歳人口にとどまらない。むしろ生涯教育の視点から、それぞれの学習者に適切なコンテンツを提供していくべきであろう。
 
 この意味では、「ユニバーサル・アクセス」が可能な高等教育機関として、21世紀型市民の学習需要に応えられるような質の高い教育・研究環境を実現させねばならない。また、中等教育を担当する付属校と系属校との関係も、高大連携の観点から新たに抜本的な再検討が必要であろう。
 
 そして、「危機の時代」における文学部と人文学再興の不可欠さを唱えるだけではなく、教育と研究環境を整備し、さらに文学部内の自己変革の努力が求められていると思われる。


前のページに戻る
ページ先頭へ

© Meiji University,All rights reserved.