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明治大学広報
第572号(2006年6月1日発行)
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「キケロー伝の試み」 角田幸彦 著 (北樹出版、2900円)
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 思想研究の一般的傾向として極めて危惧すべき点は、いかに独創的な思想といえどもその時代的・社会的背景、さらには自然的・風土的土壌の産物でないものはひとつとしてないという認識が欠落していることである。現にまた資料的・言語的事情からこの欠落を埋めることが極めて困難な場合もある。思想史上における「ローマ時代」などはその典型であろう。

 すでにギリシア哲学研究においてのみならず、現代哲学の分野においても西田哲学や景観論において画期的業績を上げられた角田幸彦教授は、このたび、独・仏・英語とギリシア語・ラテン語を含む卓越した語学能力を駆使して膨大な文献を渉猟・解読しつつ、特にキケローに焦点を絞りながらローマ精神史成立の時代的・政治的背景を徹底的に解明した労作『キケロー伝の試み―キケローとその時代』を上梓された。角田教授自身にとっては、本書は、ほぼ同時に発刊された記念碑的大著、『キケローにおける哲学と政治』に導くための序論的意味を持つが、前著のみをもってしても、いまだ薄明の中に眠るローマの精神と政治の世界にようやく本格的な光が投じられたことになる。

 本邦哲学界にひとつのエポックを画するものであろう。

尾崎和彦・明大名誉教授(著者は農学部教授)




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