第574号(2006年8月1日発行)
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「デーヴダース」
S・チョットッパッドヤーイ著 鳥居千代香訳(出帆新社、2200円) |
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近年IT産業の著しい成長によって、その経済発展が注目されるインドであるが、一方この国は世界一の映画生産国でもある。このインドで2002年に製作されて高い評価をえた「デーヴダース」の原作の翻訳が本書である。1917年にベンガル語で出版されて以来、多くの言語に翻訳されかつ数回にわたって映画化されて、インド国民の圧倒的支持をえている。「インドで映画の影響は…新聞や本すべてをまとめたものより大きい」との初代首相ネルーの言葉が訳者によって紹介されているが、まさにインド国民に多大な影響を与えた作品である。
物語自体は、大金持ちの息子に生まれながら、カースト制度に翻弄され、酒に溺れて破滅への道を突き進んでいった男の話である。だが心引かれるのは彼を取り巻く女性たちである。近年本書の訳者によって、インド社会の闇ともみえるサッティや持参金をめぐる事件について知らされてきた。そこでの女性は痛ましい犠牲者である。しかしこの作品に登場する女性は、庶民にしても娼婦にしても全く別である。自己の言葉を持ち、信念を貫く誇り高き女性たちである。そんな女性たちに20世紀初めのインドで出会えるのである。
吉田恵子・情報コミ学部教授(訳者は政治経済学部講師)
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