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明治大学広報
第576号(2006年10月1日発行)
本棚
「石川啄木 国際性への視座」 
池田功 著 (おうふう、6,800円)
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 啄木の名を聞いた時、私は「地図の上朝鮮国にくろぐろと墨をぬりつゝ秋風を聴く」という韓国併合への抵抗を意図したとされる歌を思い起こす。

 従来この歌について、大逆事件以後の啄木の思想変化・先鋭化によって結果されたものとの解釈もあったが、著者池田は、伊藤博文暗殺に際してむしろ伊藤への共感を歌っていた事実を踏まえ、この歌の成立事情に新たな見解を加えた。当時の非西洋社会のインテリは、例えば魯迅がそうであったように進化論を媒介にしつつ、「亡国」への危機感を主なその批評・創作の原動力としていた。韓国併合を批判しつつ、しかし伊藤への共感を隠さないという当時の批判的インテリの矛盾する立場をどのように確定するのか −本書は、歴史のアポリアへと接近した苦心の研究成果であると言える。第二次大戦後の価値観を安易に投影せず、また当時の思想的地盤を手放しで肯定することもなく歴史に介入する、そのような緊張感に満ち溢れた仕事に刮目せざるを得なかった。もうひとつの本書のメリットは、「国際性」とあるように、啄木の思想的屈折を世界的水準にまで展開した点である。ジャンルを越えた読者を獲得することであろう。

丸川哲史・政治経済学部助教授(著者は政治経済学部教授)

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