第579号(2007年1月1日発行)
本棚
「造形の構造」
加藤茂 著 晃洋書房、2700円 |
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加藤さんに最初に会ったのは、私が明治の大学院の修士にいる頃だった。都立大学の坂井秀寿教授が主宰するヴィットゲンシュタイン・ゼミナールで会った。真面目で質朴、私とは正反対であった。それは今も変わらない。
加藤さんは堂々と芸術について語る。実に勇敢である。その勇敢さが生きるところと空振りに終わるところがあって、この本の第2章にある「アウラと複製の狭間」は、空振りになりそうでいてはっしと現代の芸術の陥穽をついて、さらに芸術に向かう人間の感覚のありかをはっきり示しているから、九鬼周造の『いきの構造』や、坂部恵さんの仕事とも触れ合っていて、そう思えば、この本のタイトルをどうして『アウラの現象学』としなかったのかが不思議だ。
「アウラ」とは「オーラ」のことだ。芸術の「オーラ」とはなにか。それを加藤さんは実に丹念に検証している。ロラン・バルトなら、歌手パンゼラについて書くことで言いたかったことを、ベンヤミン、セザンヌ、デュシャン、ウォーホールまで引き合いに出して書いている。その周到さに舌を巻く。私ならやはりバルトのようにやるだろうなと思いながら。この第2章だけでも読むことを勧める。
土屋恵一郎・法学部教授(著者は商学部講師)
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