第580号(2007年2月1日発行)
本棚
「スポーツに言葉を」現象学的スポーツ学と創作ことわざ
山口政信 著、遊戯社、2600円 |
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この本を一読して、強く心に湧いてきたことは、「体を動かすこと」と「言葉の学習」とは同じである、一緒であるという確信に他ならなかった。体育から言葉に進むか、言葉から体育に進むかということは、表面のちがいにすぎない。ただ、ベクトルが違うだけで、同じ境地に到達する。 著者は、《身体を練り、心を耕し、言葉を紡ぐ》という諺は、身体・心・言葉が三位一体となってはじめて個が存在するという認識を強烈に持っている。言葉は、特定の人々の独占物ではなく、全ての学問の基礎である。修士論文も博士論文も全て「言葉」で書かれることを想起すればいい。ということは、物を考える基礎であると言っても同じ意味である。言葉を本当に身につけるには、頭よりも体で習得した方がいい。著者が《身体を練り、心を耕し、言葉を紡ぐ》という諺に思い至ったのは、こういう経験に裏打ちされた背景があるのだろう。そうであるとすれば、スポーツAOや体育推薦で入ってくる学生に、言葉の学習を課すシステムを作ってもいいのではないか。それは、明治大学の特徴となろう。
この書は、個を強くすることをキャッチフレーズにしている明治大学全体の教育の在り方を考えさせる刺激的な著作である。
別府昭郎・文学部教授(著者は法学部教授)
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