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明治大学広報
第584号(2007年6月1日発行)
本棚
「右目の白夜 Right Eye in Twilight
夏石番矢 (乾昌幸) 著  沖積舎、 2,800円
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 本書は前衛俳句の異能として知られる著者の第11番目の句集であり、01年から05年までの232句が収められている。この間、著者は右目の不調と白内障手術による入退院を経験する一方で、『世界俳句』を主宰し、活躍の場を海外にまで広げてきた。この句集は一種の「闘病句集」なのである。

 著者は自身でも始末のつかない過剰な性情を抱え込んでいるが、こうした過剰な人間が俳句という極小の詩的表現形式を採用していること自体、蓋し皮肉なことと言わねばならない。結果的に著者の俳句は、小さな風船に過剰に空気を吹き込んで破裂したような趣を呈する。もちろん不発に終わっている句も無いわけではないが、ときに時代や社会、そして自他の小賢しい心性を吹き飛ばす炸裂に満ちた傑作が生まれている。「飛んで散れ父母への冬のもの思い」。これは、おそらく著者にしか詠めない名句である。

 だが、著者のもっとも優れた美質が表われているのは、激情が炸裂した後の静かな叙情にあると言うべきだろう。「わが帰路は森の記憶の漂う薄闇」。 著者のような前衛俳人を抱えている本学の詩的伝統の深さに、私は改めて感動を覚える。

田島正行 法学部准教授(著者は法学部教授)




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